リュウジ・著『孤独の台所』(朝日新聞出版)
リュウジ・著『孤独の台所』(朝日新聞出版)

「思わず笑ってしまいました」

「ばあちゃん、やばいよ。江戸川競艇場のモツ煮、うちとまったく同じ味なんだけど」

 すると祖母は、「昔、うちは江戸川競艇場の裏に住んでいたの」と言うんです。

「そのとき、よく競艇場にモツ煮を買いに行ってたの。そのあと千葉に引っ越して、江戸川競艇場から離れちゃったから自分で作ったんだよ」

 なんと実家の味は完全なる再現レシピだったんです。

 よくよく話を聞いてみると、うちの祖父母は昔からものすごくモツ煮が好きで、寸胴鍋を競艇場まで持って買いに行って、帰ってきて、その鍋を温めながら食べていたということでした。

 俺も子どものころ、祖父母が江戸川競艇場近くに住んでいた時代に、その家に帰省したことがあります。あのとき食べたモツ煮は、実は江戸川競艇場から買ってきたものだったのです。

 その後、祖父母は千葉に引っ越すということで、めちゃくちゃ丁寧にその味を再現していた。基本的な作り方やコツは、競艇場の人から聞いていたんでしょう。

 よくこれだけ忠実に、あのクオリティを再現できるものです。食べるのが好きで、外で食べたおいしいものを家庭で再現したいと思う癖は遺伝なんですね。

 祖父母の再現力の高さもすごいなと思ったけど、江戸川競艇場のモツ煮の味が何十年も変わっていないのもすごい。ついでに、それを食べた瞬間にわかった俺もすごい。

 みんなすごくて、思わず笑ってしまいました。

(リュウジ・著『孤独の台所』から一部を抜粋)

孤独の台所
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