
千葉県で生まれ育ったリュウジさんの「実家の味」であるモツ煮。その味の「原点」に、ある仕事がきっかけで気づいたといいます。自身の料理哲学を語った最新刊『孤独の台所』(朝日新聞出版)より、一部を抜粋してお届けします。
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思い出の味といえば、なんといってもうちのモツ煮。
祖父母がよく作っていて、週1回は食卓に出てきました。正月みたいに親族が集まる席でも定番の、実家の味なんです。
今でも好きで居酒屋でモツ煮を頼むことはあるけど、うちの実家よりうまいモツ煮を食べたことはありません。同レベルぐらいのモツ煮はあっても、やっぱりうちのがいちばんうまい。
これは嘘みたいな本当の話なんですけど、うちのモツ煮って江戸川競艇場(現ボートレース江戸川)の名物として知られるモツ煮と同じ味なんですよ。
料理研究家になってから、江戸川競艇場とコラボの仕事がありました。
俺のレシピにある牛すじ煮込みとから揚げを江戸川競艇場のレストランで出すという企画で、現地に行ってみたら、メニューにモツ煮があったんです。
モツ煮好きとしては、外で食べるモツ煮のうまさは格別だと知っているから、どんなもんだろうかと頼んで一口食べてみたのですが……とんでもなく驚きました。
まずとんでもなくうまい。うちと同レベルにうまいモツ煮と言ってもいい。
というよりも、ほぼ同じ味なのです。
一緒に酒も飲んでいたから酔っ払っていたんだけど、酔いも覚めるくらい驚いてしまって、すぐに祖母に電話をかけました。