
中国人富裕層の日本移住や資産移転が進んでいる。近年は富裕層に限らず、若い世代の移住も目立つという。背景に何があるのか。
都心の中古マンション高騰 新築時の3倍超に【リセールバリューが高い駅、上位285発表】
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コロナ禍後の中国で、資産の保護や良い教育環境、自由な言論などを求める富裕層らが国外移住する現象は「潤(ルン)」と呼ばれている。中国語読みの「ルン」と、英語で逃げることを意味する「run」をかけた言葉だ。日本移住を志向する「潤」系の中国人は富裕層にとどまらず、中間層に近いアッパーミドル層にも広がっているという。
「ここ数年は特に、中国人の不動産購入の勢いが顕著になっていると感じます。中国系の仲介業者を経由して物件にアクセスする人がほとんどです」
こう話すのは、都内で不動産会社を経営する日本人男性だ。
実際、インターネット上には「中国人向け」をアピールする不動産の仲介業者があふれている。経営者のほとんどが中国籍で、日本の宅建士資格も取得しているという。
「そもそも中国の人口が半端ないですから。その一部の中国人に特化しても日本で十分商売として成立する規模の市場が、日本とりわけ都内にはある、ということです」
男性が中国人に初めて不動産を販売したのは5年前。手掛けたのは東京都世田谷区内の中古の戸建て住宅。価格は約5千万円だった。取引先の銀行の個室に案内した際、購入者の中国人はスポーツバッグからおもむろに札束を取り出し、目の前のテーブルに積み上げた。
男性が当時を振り返る。
「銀行の帯封ではなく、輪ゴムで百万円ずつ結ばれた札束でした。普通に生きていると、あまり見ない光景ですよね」
中国人が日本で不動産を取得する際は「キャッシュで一括払い」が基本だという。そもそも日本の銀行で住宅ローンを組むのは困難なうえ、中国には外貨規制があり海外送金は1人当たり年間5万ドル相当額に制限されている。このため、親族などで手分けして資金を分散送金するなど、それぞれが独自のルートで日本円を工面しているという。
男性が呆気にとられたのには別の理由もあった。契約書面にサインする中国人の足もとに、もう一つ、同じ大きさのスポーツバッグが置かれていたのだ。
「5千万円の物件の契約を交わしたその足で、もう一軒、別の物件を購入予定なんだろうなと察しました。この勢いはすさまじい、とそのとき肌で感じました」
英コンサルティング企業ヘンリー&パートナーズがこのほど発表した富の移転に関する報告書によると、投資可能資産が100万ドル(約1億4500万円)以上の富裕層のうち、英国に継いで2番目に大規模な国外流出が予測されているのが中国だ。今年じゅうに他国で居住権を得るとされる中国人富裕層は7800人。その受け皿の一つが日本だ。