
NHK連続テレビ小説「あんぱん」は、やなせたかしさん、小松暢さん夫妻をモデルに、苦悩と荒波を越えてふたりが「アンパンマン」にたどりつく姿を描く。主人公・若松のぶを演じるのは今田美桜、夫・柳井嵩役は北村匠海さんが務めている。物語が中盤に差し掛かった今週から週に1回、「あんぱん」のレビューをお届けする。
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『月刊くじら』の危機を救ったのは
7日から開始の第15週(71~75話)は、1946年、高知新報に戦後初の女性記者として入社していたのぶが、同社の入社試験を受けに来た嵩と久々の再会。そんな中、翌日の紙面記事に穴があく。夜遅くに編集局に連れて来られた嵩は言われるがまま挿絵で埋めることになる。のぶが心配そうに見守るなか無事に描き上げた嵩は採用される。一方、のぶは雑誌の『月刊くじら』創刊号の発刊に向けて忙しい日々を過ごす。順調に記事が埋まっていくが、入稿日にまさかの事態が……という内容だった。
今週、印象的だったのは、嵩が自称する無力さ(土佐弁で言う「たっすいがー」)と、内に秘めた爆発的な才能との対比である。嵩は、就職面接で、自身の価値を言葉にできず、まるで敗戦に打ちひしがれた世代そのものを体現しているかのようだった。しかし、のぶは嵩が自分でも気づかない価値を見抜いていた。天性の編集者的嗅覚で、忘れられていた嵩の4コマ漫画を資料の山から発掘することで、彼の価値を言葉ではなく「作品」で証明してみせる。才能が自身の居場所を見つけてくれる感動的な瞬間だった。
この騒動は、『月刊くじら』創刊に向けての作業で、さらに熱を帯びる。校了直前に原稿が落ちるというハプニングがあったが、編集長・東海林(津田健次郎)の「面白ければみんな読む」という一言で、その意味を反転させる。空白のページはもはや単なる危機ではなく、新たな表現が生まれる好機なのだ。嵩に与えられた「50分で漫画を描く」という試練は、彼の覚悟を問う儀式だった。「描かずにいられない」という衝動こそが、戦後メディアを動かした原動力であったと、このドラマは語りかける。