やがて「アンパンマン」へ
そして第75話、一行は取材で東京へ。しかし、待っていたのは、空腹と予期せぬトラブル。屋台のおでんで、のぶ(大根だけ食べて無事)以外、男たちが食あたりで倒れてしまうのだ。この喜劇的な展開は、史実でやなせ夫妻が経験したエピソードが元になっている。ここでアニメ「それいけ!アンパンマン」でアンパンマンの声優を務める戸田恵子が登場し、絶体絶命のピンチで彼らを助けた。この戸田が演じる女性こそ、一行が取材したいと探し求めていた「ガード下の女王」と呼ばれる高知出身の女性代議士・薪鉄子だった。
彼女の存在は、フィクションと現実の境界を揺るがす象徴的な仕掛けだ。鉄子は子どもたちのための場所を賭け、ヤクザ相手に麻雀で「なめたらいかんぜよ!」と啖呵を切る、まさに「鉄火な」人物。その姿は、困った人を助けるアンパンマンの姿と重なる。
ドラマの中で「アンパンマン」が生まれる前夜、現実世界の「声」が物語に重なることで、視聴者は「夢」と「現実」の接点を強く意識させられる。この演出は、ドラマが描く「夢」が決して絵空事ではなく、現実の中で誰かを救う力を持つことを示唆している。のぶと嵩の歩みは、やがて「アンパンマン」という国民的ヒーローの誕生へとつながる。その前夜に立ち会う私たちもまた、彼らの「夢」の証人なのだ。
「あんぱん」第15週は、のぶと嵩の関係性の変化と、夢を現実に変える表現者たちの奮闘を描き切った。虚構と史実の狭間で紡がれる物語は、視聴者に「夢」と「現実」の接点を問いかけた。
(澤由美彦)