私たちの祖先は、何万年もかけてアフリカから世界中に散らばっていき、数を増やしていくことになりますが、アフリカを出た後も再度アフリカに戻っていったりもしています。

 現在の地球の人口(80億人超え)からすると考えられないことですが、それほど数が多くなく、しかも都市も、国家も、民族も、集落もなく、移動しながら暮らしていた時代です。私たちはビクビク怯えながら樹々や洞窟に隠れたりして日々を送っていたのかもしれません。たまにどこかで、見知らぬ誰かにばったりと出くわすこともあったでしょう。

 もし、あなたに似た人物が、そこで怪我をして苦しんでいたらどうでしょうか。私たちの祖先は、最初は怪しみながらも、そっと近づいて彼らの手当てをしてあげたのかもしれません。もっていた食べ物を差し出していたのかもしれません。

 マイクロ・カインドネスをもつ私たちは、そうした太古の人々のやさしさの起源について想像したくなってしまいます。

 人間は社会性を大切にする動物です。ひとりでいると孤独で寂しさを感じ、心細くなります。誰かとつながりたいと身体全体が叫びを上げるようです。
 

私たちはひとりではないことを相手に伝えている

 人間の脳は、10万年前からそこまで大きく変化していないのですから(大きく変わったのは環境です)、この誰かとつながりたいという感覚は、太古の昔を生きた私たちの祖先が感じていたものと等しい可能性もあります。

 その意味でもマイクロ・カインドネスは、たとえ見知らぬ人であっても手を差し伸べ、つながることで、私たちはひとりではないことを相手に伝えている行為なのです。

 ですので、あなたがやさしいがつづかないと悩み、思い詰めているとすれば、まずスタートすべきは、この「小さなやさしさ」があることを信じることです。

 そしてこのやさしいがあなたの中に生きつづけているかぎり、やさしくないと自分を責める必要はありません。
 

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