てらじま・しのぶ/1972年、京都市出身。最近の主な映像作品に「キネマの神様」「空白」(ともに2021)、「あちらにいる鬼」(22)、「わたしのかあさん -天使の詩-」「八犬伝」(24)などがある。 ©伊藤資人導(SEPTEM)
てらじま・しのぶ/1972年、京都市出身。最近の主な映像作品に「キネマの神様」「空白」(ともに2021)、「あちらにいる鬼」(22)、「わたしのかあさん -天使の詩-」「八犬伝」(24)などがある。 ©伊藤資人導(SEPTEM)
この記事の写真をすべて見る

 大ヒット中の映画「国宝」。原作の吉田修一さんの同名小説(朝日新聞出版)から続いて描かれているのは、歌舞伎の世界の「血筋」と「本筋」の生きざまだ。映画に出演した寺島しのぶさんは、七代目尾上菊五郎の長女として生まれ、結婚して生まれた長男・眞秀(まほろ)さんが現在、歌舞伎の舞台に立つ。映画出演を通して感じた素直な想いを聞いた。

【写真】歌舞伎役者の娘として生まれて 寺島しのぶさんが語る「血筋」と「本筋」

*   *   *

 歌舞伎の世界の血筋は親から子へ受け継がれるもの、本筋はその屋号に代々伝わる型や様式を指し、基本的に歌舞伎役者の息子へと受け継がれる。

 寺島さんは2007年にローラン・グナシアさんと結婚し、12年に長男・眞秀(ルビ・まほろ)さんを出産。眞秀さんは4歳から歌舞伎の舞台に立ち、23年5月2日には初代尾上眞秀を名乗り、歌舞伎座で初舞台を踏んだ。だが祖父・尾上菊五郎の“血筋”は引いているものの“本筋”ではなく、そこにはひとつクッションのようなものが置かれているのだ、と寺島さんは言う。

「眞秀本人も男親が歌舞伎役者じゃないとこれが現状ということをよくわかっている。それでも『やりたい』というので、私は全力でサポートします。親が歌舞伎役者ではなくても輝いている先輩役者さんたちが今は沢山存在していますから。喜久雄みたいなスーパースターが出てくると、個人的には『素晴らしいじゃない! 喜久雄、頑張れ!』という気持ちになってしまう」

映画「国宝」のワンシーン ©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

「血」か「芸」かの問い

「国宝」の大きなテーマである「血」か「芸」かの問いは深いのだ。

「半二郎は芸を知っている人だから、喜久雄をぱっと見た瞬間にその素質を動物の勘で嗅ぎ分けてしまったんだと思うんです。同時に危険も感じたでしょう。『あ、この子は俊ぼん(俊介)よりよくなるかもしれない』と。天性の華やかさに女形に向いている顔つき、さらに俊ぼんにはない、そこはかとない『闇』の魅力みたいなものが喜久雄にはあった」

 陰と陽のような二人を演じきった吉沢亮と横浜流星、そしてそれぞれの子ども時代を演じた黒川想矢、越山敬達に、寺島さんは惜しみない賛辞を送る。

「大ヒットの大きな要因は亮くんと流星くんの二人が築いた関係性でしょう。撮影中も二人は大変な場面を支え合って、切磋琢磨して、それがお芝居にも出ている。そして李相日監督もスタッフさんも全員が歌舞伎というものに真剣に取り組み、リスペクトしてくださった。この映画はだからこそ生まれた『賜物』なんだと思います」

次のページ