
「『大変なことになっているので一度、取材をしてほしい』と言われたんです。調べてみると確かに周辺の物件に比べて格段に安い。業界では有名な“ヤバい”物件でした」
住民に話を聞きに行ったが、正直にわかには信じられなかった、と振り返る。
「マンション内に54台もの防犯カメラが設置され、住民が24時間監視されている。平日17時以降や土日は介護ヘルパーやベビーシッターも出入りできない、など数々の謎ルールが掲げられ、まるで独裁国家で暮らしているようだと言うんです」
こうして栗田さんは管理組合を私物化する理事たちvs.マンションの民主化を願う住民の闘争を追うことになった。
「ノンフィクションというよりもエンタメ小説のタッチを意識した」というとおり、さまざまな困難にぶつかりながら闘う住民たちの姿は実にドラマチック。法律を学び地道な調査を続けて住民側のリーダーとなる女性や専門知識を持つ助っ人など、登場人物たちも魅力的だ。ほぼ全員が実名、という点もすごい。同時に住民側だけの主張に偏らない取材も心がけた。
「マンションってつくづく社会の縮図なんです。企業はもちろんPTAにもこの理事長みたいな人はいるし、一部の人間が権力を牛耳り、声を上げた人を村八分するなど民主主義を後退させている状況は田舎などではよくある光景です。そんななかで『これはおかしい、是正しないと』と立ち上がったのが60歳以上の高齢者、かつ多くが女性だったことも印象的でした」
ほぼ勝ち目のない闘いを住民たちはひっくり返すことができるのか? 顛末はぜひ本著を読んでいただきたいが、本著は「無関心でいると、知らぬ間にとんでもないことが起こるかも」というあらゆる人に向けた警鐘でもある。
「選挙に行かない人や日々流されやすい人に、ぜひ読んでいただきたいですね」
(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2025年7月14日号
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