とはいえ、先述のように火災保険料や地震保険料のアップは今に始まったわけではない。にもかかわらず、よりによって物価高に苦しむ人が多いこの時期に、保険料の大幅アップを実感する人が多いのはなぜなのか。それは、今年が契約更新のピークのタイミングと重なっているからだという。
火災保険の契約期間は、かつては最長36年まで認められていたが、15年10月以降は「最長10年」に、22年10月には「最長5年」に短縮された。このため、15年10月の制度変更の際、保険料が割安になる最長の「10年契約」に切り替えた加入者が一斉に満期を迎えるのが今年10月なのだ。川井さんは保険契約の現場の実態についてこう話す。
「このご時世、『物価上昇慣れ』している人は多いはずですが、新たな保険料を提示すると、皆さん一様に驚かれます。『何かの間違いでは?』と問い返す人や、なかには『私、どうしたらいいの……』と動揺を隠せない人もいます」
主に関東一円を担当する川井さんが実感するのは、地震保険料アップの影響だ。実際、同じ関東圏でも内陸部の栃木県や群馬県と、太平洋に面した千葉県では、地震保険料は4倍近くの開きがある。
「地震保険料の値上げ幅が大きい茨城県や埼玉県、以前から高かった千葉県では、生活への影響が大きいため地震保険を解約する人も今年に入って目立ちます」
つまり、地震や津波のリスクが高いと判断されている地域の人ほど地震保険を解約してしまっている可能性がある、というわけだ。これは矛盾としかいいようがない。
とはいえ、「必然」ともいえる実情もあるようだ。川井さんは火災保険については万が一に備えて加入や更新を勧める一方、地震保険については「当事者の納得感が大切」と考え、必ずしも加入を勧める営業はしていないという。理由はこうだ。
「火災保険は通常、被害相当額はほぼ全て保険で賄えます。一方、地震保険の保険金額は火災保険の30~50%の範囲内に制限されており、保険金だけで建物を元どおりに建て直すことはできません。被害査定も厳しく、建物の基礎や構造躯体(くたい)に大きな損害が出ないと、そもそも保険がおりないケースも珍しくありません」