随意契約で安価な備蓄米が店頭に並ぶようになったが、銘柄米の価格引き下げの道筋は見えていない
随意契約で安価な備蓄米が店頭に並ぶようになったが、銘柄米の価格引き下げの道筋は見えていない

国民の不信を募らせる

 その間、自民党の勢いは低迷したままだ。その理由は三つだ。第一に安倍派を中心とした派閥の裏金事件は、2023年秋に表面化して以来、自民党のガバナンス(統治能力)の欠如をさらけ出した。80人を超える衆参両院議員が政治資金収支報告書に記載されない資金を私的に流用していたが、自民党は十分な真相解明ができなかった。当時の岸田文雄首相(総裁)は最大派閥の安倍派に気を使ってリーダーシップを発揮できなかった。安倍派の幹部らは国会での証言などで「記憶にない」「秘書に任せていた」といった発言を繰り返し、国民の不信を募らせた。自民党は再発防止策としての企業献金の禁止にも踏み込めないままだ。

 第二に自民党の政策が時代の要請に合わなくなっていることだ。自民党は1955年の結党以来、高度経済成長を導く経済政策や高齢化社会を見据えた消費税導入、貿易摩擦を解消するための市場開放策などを打ち出した。時には国民の批判が強まり、自民党政権が倒れる事態につながった。それでも、痛みを伴う政策であっても長期的な視点から断行してきた。だが、バブル経済の崩壊以降は目先の景気対策に終始してきた。第2次安倍晋三政権(12~20年)によるアベノミクスも、金融緩和による一時的な景気回復と雇用の改善をもたらしたが、日本経済の競争力を強めることはできなかった。

「バラマキ」との批判

 最近では物価高に対する有効な対策を打てていない。小泉進次郎農水相による備蓄米の随意契約で安価な備蓄米が店頭に並ぶようになったが、銘柄米の価格引き下げの道筋は見えていない。参院選に向けて打ち出した全国民一律2万円の給付も、「バラマキ」との批判を浴びている。

 第三に自民党政治家の人材が劣化していることだ。21世紀に入ってからの自民党の首相は計7人(小泉純一郎、安倍晋三=2回、福田康夫、麻生太郎、菅義偉、岸田文雄、石破茂各氏)だが、そのうち世襲でないのは菅氏ただ一人だ。世界の民主主義国家では例がない。自民党の衆院議員のうち世襲議員は3割近くにのぼる。後援会を親から譲り受け、建設、農業、医療といった業界団体の支援も続く。そうした世襲議員が思い切った政策の転換に踏み出せないのは当然だ。世襲は政策の停滞につながっている。

 石破首相は自民党内で「非主流暮らし」が長く、政権に就いたら党の古い体質にメスを入れるのではないかという期待が霞が関の官僚や経済人の一部に出ていた。しかし、実際には党内保守派などの抵抗に直面して、持論を封印。党改革や政策の見直しは進んでいない。そうした状況で石破自民党は参院選を迎える。

次のページ 根が深い有権者の不信