本連載の書籍化第6弾!『鴻上尚史の具体的で実行可能!なほがらか人生相談』(朝日新聞出版)
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【鴻上さんの答え】

 しいなさん。大変ですね。何度、「私はもう割り切っている」「楽しくて仕方ない」と告げても、母は納得してくれないんですね。

「親にとって、子供の夢が叶わなかったということは相当つらいことなのだろう」と書かれていますが、この表現はじつに微妙ですよね。誰が、なぜ悲しいか、ですよね。

「子供の夢が叶わなかったことが、子供につらい」というなら、しいなさんは、「後悔はない」と言っているのですから、問題はないですね。

「子供の夢が叶わなかったことが、親にとってつらい」というのなら、なぜ「親にとってつらい」かですね。「子供がつらいに違いないから、親もつらい」というのなら、「子供は後悔ないと言っている」のですから、「親もつらい」のはおかしいですね。

 では、「子供がつらいかどうかは関係なく、親にとってつらい」というのなら、「どうして親にとってつらい」か、ですね。

 それはつまり、「子供の気持ちは関係ない、私がつらいんだ」ということか、それとも、「子供の気持ちもつらいに違いない。子供は正直に言ってないんだ。だから、私もつらい」ということでしょう。

 どちらにしても、「子供」の発言や気持ちは無視していますよね。

 子供の言うことをまったく信用していないか、人格を持った個人として子供を考えてない、ということですね。人格を持たない存在というのは、「私の考えと同じなのが子供、それが当然」という考えですね。子供が幼い時から、考え方をアップデートできてない状態ですね。

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