
不法移民大量逮捕に反対するLA住民たちが市警察と衝突した。メキシコ国旗がはためく「移民の街」で何が起きたのか。AERA 2025年6月23日号より。
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「父にはICEが家に来ても絶対に玄関の扉を開けないでと言ってる」
そう語るのはフォトジャーナリストのエロイサさん(35)だ。ICEとは米移民税関捜査局のこと。このICEがいま、トランプ政権の命令によりロサンゼルスで不法移民の大量摘発を行っているのだ。白いバンで農場や工場、量販店に現れ拘束し逮捕する。それに抗議するLA住民たちがデモを行い警察と衝突した。
エロイサさんは12歳の時、親に連れられメキシコと米国の国境をブローカーの車の中で花柄の毛布を頭からすっぽり掛けられ、息をするなと言われて入国した。16歳未満で米国に不法入国した若者への救済策としてオバマ政権が2012年に制定したDACA制度によって彼女は合法滞在の資格を得ることができた。だが彼女の父には救済措置がなく、23年間不法滞在中だ。
「不法滞在者は、なぜメキシコに帰って正式なビザを得てから再入国しないのか?」
トランプ支持者たちはそう言う。だが、メキシコで段ボールと木でできた家に家族と住み、食べ物も満足になく空腹だった貧困生活を記憶しているエロイサさんは、その選択肢はないと断言する。もし彼女の父が祖国に帰っても、不法滞在の罰で最低10年は米国に入国できず、その後もビザが取れない可能性が高い。
親と子のサバイバル
「父は幼かった私と弟たちを養うため必死で働き、米国に税金も払ってきた。我が子に人間らしい生活をさせたい一心だった」とエロイサさん。
彼女と同じ境遇の若者たちは米国に約53万人おり、その両親の多くが不法滞在中だ。
ちなみに人口約1千万人のロサンゼルス郡の不法移民の数は約100万人。そのうちヒスパニック系が79%以上だ。
「滞在許可がない移民の大多数は逮捕を恐れて抗議デモや暴動には近づかないし、スピード違反や駐車違反も決してしないよう細心の注意を払っている。茶色い肌をした人間は特に」とエロイサさん。
今回のデモの主な参加者が不法移民ではなく、米国市民だとするなら、なぜここまでの規模になったのか? それを読み解く鍵になるのがICEに課せられた「1日3千人」という逮捕の数値目標だ。