つまりLA住民は今回の抗議デモに限らず日常的にメキシコ国旗を見慣れているのだ。昨年のLAドジャースの優勝パレードを見るために集まった観衆を見渡しても、メキシコ国旗がはためき、マリアッチの音楽が流れていた。

「メキシコ国旗を振るなら、とっととメキシコに帰れ」とトランプ支持層が激怒するのを日米両方のSNS上で見たが、LAではメキシコ国旗は個人の好き嫌いは別として、すでに風景の一部なのだ。

忠誠度テストの圧力

 トランプ再選に多くのヒスパニック有権者が投票したことに関して、前述のエロイサさんは「『卵の価格を俺が下げてやる』と豪語されて、それを信じた有権者がいるのは仕方ないのかもしれない。誰でも物価高は苦しいから」と語る。それでもトランプ再選のニュースを見た時には「同胞だと思っていた人たちに裏切られた気がした」と言う。

 彼女にとって、トランプ政権下のICEの動きは「まるで狩猟のよう。あらゆる動物のハンティングが解禁になったオープンシーズン」という。「それを演出するショーとして海兵隊や州兵をLAに出動させて、支持者を焚きつけるのがトランプのやり方だ」

 不法移民の父を持つ彼女は、あらゆるシナリオを想定して警戒心を持ちつつも、フォトジャーナリストとして移民たちの人間としての姿を記録し続けたいと語る。

 また移民弁護士の仕事に情熱を注ぐスーさんにとって気がかりなのは、トランプ政権の意向に沿わない判決を出す移民裁判所の判事や職員が解雇されていくことだという。

「現政権への忠誠度テストをパスしなければ雇われず、雇われたとしても判事個人の法的解釈は必要とされず、工場の流れ作業のような判決の出し方が求められているから」

 ICE職員募集の広告が求職サイトに頻繁に出る。ICE職員もまた地元LAの住民なのだ。「ギャングやドラッグ関連などの重犯罪者を捕まえて社会を良くするために応募したのに、病院や工場に行ってそこで働く労働者を逮捕して数字を上げろと上司からプレッシャーをかけられる彼らもある意味気の毒なのかもしれない」とスーさんは言う。

(在米ジャーナリスト・長野美穂)

AERA 2025年6月23日号

こちらの記事もおすすめ 私たちは本当に客観的だろうか 信じたいものを信じる状況、「ポスト・トゥルース」をドナルド・トランプから考える
[AERA最新号はこちら]