抗議デモに乗じてリトル東京の日系人博物館に描かれた落書きを消すボランティアたち(写真:ロイター/アフロ)

連絡取れずに国外追放

「現政権は、自ら目標に掲げた大量の逮捕者の数を達成するため、ICEにすでに自身の情報を登録していた人たちすら拘束して連れて行く。彼らは本来なら逮捕されないはずなのに。そして家族や弁護士と一度も連絡を取れないまま国外追放されるケースが増えている。今や米国市民でなければ、合法移民であっても逮捕されうると言える」

 そう語るのはLA在住の移民弁護士、アンジェラ・スーさんだ。ちなみにバイデン政権時代のICEの逮捕件数は「1日で300人」ほどだった。

 毎日3千人がこの国から忽然と消えていく──。それが移民の街LAで集中的に行われているとなれば、逮捕者の家族や友人、隣人、仕事仲間であるLA住民たちが抗議デモに出るのは自然とも言えるだろう。

「自動運転車に火をつけて燃やしたり、店舗で物品を略奪したり、全米日系人博物館の壁に落書きをしたりした人は抗議デモ参加者のごく一部に過ぎない。多くのデモ参加者は平和的。テレビ報道で見るとLA全体が戦争状態のように見えるけど実際は違う。リトル東京は連邦ビルに近いという地理的要因からたまたま被害を受けてしまったけど、日系人の高齢者が多く住む専用住宅は無事だった」

 日系市民協会(JACL)のサウスベイ地区会長のケント・カワイさんはそう語る。

 ちなみに被害の翌日にはブラシを持ったボランティアたちが日系人博物館に集まり壁の落書きを洗い流した。

イリーガルと呼ばない

 日本ではあまり知られていないが、カリフォルニア州では不法移民は「イリーガル・エイリアン」ではなく「ビザの書類がない人」という意味の「アンドキュメンティッド」と呼ばれるのが一般的だ。

 そして彼らは農業、建設、飲食、ホテル、介護、ハウスキーピングなどさまざまな業界で働いており、米市民同様にアパートや住宅街に住んでいる。不法移民であってもカリフォルニア州の運転免許を正式に持つこともできる。

 賛否両論あれど、彼らは世界有数の規模を誇るカリフォルニア経済を支える労働力の重要な一部であり、コミュニティー構成員なのだ。

 例えば筆者が所属していたLAの女子草サッカーチームにも「アンドキュメンティッド」のチームメイトは数人いた。ある時、皆でバーベキューをしていた時に「タマネギ、幼い頃は生のままよくかじってたな。それしか食べ物がなかったから」とストライカーのひとりが語り出した。それを聞いて彼女の生い立ちを初めて皆が知った。このチームには弁護士、獣医師、銀行員、学生、LA市警の刑事、元軍人などさまざまな女性たちがいたが、誰が米国市民で移民かなど誰も気にせず、皆がひたすら週2回、サッカーに興じていた。

 試合の時はメンバーの家族も大勢応援に来て、メキシコ国旗を持ってくる人もいた。

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