
生地は、淡い象牙色の生地に大柄の白のカメリアと鮮やかな緑の葉が配された美しい模様。
依頼されたワンピースは、裾やウエスト、首まわりは黒の布がアクセントとなり、カメリアの柄が裾と袖まわりでフェードアウトするような、凝ったデザインだった。
裾に入れる黒いラインも、何センチと細かな指示があり、わずかなズレでもデザインを狂わせてしまう。
由美子さんの息子で「ほうこう」の常務取締役である、猿田由紀夫さんはこう振り返る。
「普通ならば、布は10枚、20枚まとめて機械で裁断しますが、このワンピースの生地は、熟練の裁断工に一枚一枚手作業で裁断してもらいました」
社員を指導した由美子さんは、生地を裁断する際の鋏の入れ方や縫い方に工夫を加えた。
フレアスカートのため、織り目に対して斜めにカットをする必要がある。普通は上から下に入れる鋏と針を逆にして、フレアに余計なたるみがでないように気を配った。

「光沢のある美しい生地ですが、とても滑りやすかった。針の縫い目やミシンの送り歯で布を傷めないよう、細心の注意を払うよう伝えました」
由美子さんは、もともとはオーダーメイドを専門としており、会社を立ち上げたのちにプレタポルテ(既製服)を学んだ。双方のよい部分を組み合わせて腕を磨き、「名工」となった。
「プレタポルテ(既製服)ではありますが、このワンピースは、手作業がとても多かった。職人たちにも、細かな部分まで厳しく指示しました」
そう、由美子さんはほほ笑む。