
阪神の佐藤輝明が本格的に覚醒の時を迎えようとしている。6月8日のオリックス戦では8回1死満塁で145キロ直球を振り抜くと、高々と上がった打球がバックスクリーンへ。打った瞬間に本塁打とわかる確信弾で、佐藤は打球の行方を見定めてからゆっくりと走り始めた。交流戦6試合で4本と量産状態の本塁打はリーグ断トツの17本となり、すでに昨年の本塁打数を上回った。45打点もリーグトップだ。
【写真】昨年12月、契約更改後の会見でメジャー挑戦の希望を明かした阪神・佐藤輝明
パ・リーグのスコアラーがこう分析する。
「強引に振り回さなくなりましたよね。以前は内角高めに速い球を徹底して突けば、ボール球でも手を出して打撃を崩していましたが、今年はきっちり見極めて、好球必打ができている。元々パワーはある選手なので、きっちりコンタクトすればスタンドまで打球を飛ばせる。パ・リーグにこういう打者はいないので厄介ですよ」
甲子園の浜風に阻まれていた本塁打
近大から2020年秋のドラフト1位で入団すると、21年からいきなり3年連続20本塁打をマーク。これは左打者の新人としてはNPB初の記録だった。だが、なかなか次の壁が越えられない。球界屈指のパワーがあると言われながら、本塁打は21年と23年の24本が最多で、本塁打王レースに加われない。4年目の昨年は16本塁打と自己最少の数字に終わった。
同情すべき点もある。本拠地が広い甲子園は右翼から左翼へ強い浜風が吹くため、左打者の引っ張った打球が押し戻される。佐藤は他の球場なら文句なしで本塁打の打球が、浜風に阻まれてフェンスを超えないケースが何度もあった。
阪神を取材するスポーツ紙記者は「本塁打王を何度も獲得している岡本和真(巨人)は東京ドーム、村上宗隆(ヤクルト)は神宮と、本塁打が出やすい球場を本拠地にしている。左打者の佐藤は広角にアーチを打てなければなかなか数字が伸びない。本人もそれは感じていたでしょう。今年は強引に引っ張らず、中堅から左翼への本塁打が増えていることが好調の要因だと思います」と指摘する。
打球の方向を見ると、如実に変化が表れている。中堅から逆方向へのアーチが、昨年は16本塁打のうち5本だったのに対し、今年は17本のうち半分以上の9本を占めている。甲子園で4本のアーチを放っているが、いずれもバックスクリーン周辺へ飛び込む打球だった。