
おふたりのご結婚の少し前まで、多田さんは雅子さまのヘアアレンジを担当した。
皇太子さまとのデートで雅子さまが着けていた、グリーンやブルーのカチューシャも、多田さんが準備し、使い方も伝えた。
「こうやってグッと髪に留めてくださいね」
お妃教育の勉強や結婚の準備で忙しい時期ではあったが、雅子さまは、
「ええ、わかったわ」と、真面目にヘアアレンジを学んだという。
あるとき、雅子さまが、こう口を開いた。
「今日、切手なのよ」
おふたりのご成婚の記念切手のデザインに用いる写真を、このあと撮影するのだという。
おふたりの記念切手は、何種類か発売されている。この時は、ブルーの衣装でサイドの髪を結い上げて顔をすっきりと出したヘアスタイルの雅子さまの肖像画が用いられた。
多田さんは、この記念切手をいまも大切に保管している。

多田さんが雅子さまのヘアセットを最後に担当したのは、4月20日の「告期の儀」のときだった。「結婚の儀」を6月9日に行うことを小和田家に正式に伝える儀式で、「雅子さまは、ブルーグリーンのワンピースで儀式に臨んだ。
それ以降は、別の美容室が雅子さまを担当することになった。
きちんとごあいさつをできないままであったことが、心残りだという。
まもなく多田さんは、独立して恵比寿の美容室「プレジール」の経営者となった。「告期の儀」を最後に雅子さまと対面する機会はないが、共通の知り合いが多田さんの写真を撮影して、近況とともに伝えたところ、雅子さまはユーモアを交えて感想を伝えるとともに、とても喜んでくれたという。
「おふたりのご結婚から32年、おめでとうございます。天皇陛下と、そして愛子さまと仲睦まじく笑顔でいらっしゃる姿をニュースで拝見すると、とても懐かしく嬉しいです。どうか、お元気でお過ごしください」
(AERA 編集部・永井貴子)
