
この会見の間中、多田さんは、レモン色のお帽子が落ちないかとハラハラしながらテレビ画面を見つめていた。
この日は婚約会見のあと、両陛下(上皇ご夫妻)からのお招きで、御所で夕食会が予定されていた。雅子さまは、皇居内で衣装を着替えなければいけないが、多田さんら美容師は、着替えはもちろんヘアセットも手伝うことができないのだという。
「雅子さまは、夜はブルーのワンピースに着替える予定でしたが、メイクはもちろん、ヘアセットもご自分でなさらないといけない」
どうしようかと思案した結果、レモン色の帽子の中に、多田さんはある仕掛けをした。
ブルーのワンピースと共布で手作りしたリボンを、あらかじめ雅子さまの髪に結び、レモン色の帽子を被せて隠してしまったのだ。

ただし、雅子さまがおひとりでレモン色の帽子を外して、準備をしないといけない。手間取って髪型が崩れないよう、本来帽子についていたフックは使わずに、2本のピン留めだけで固定した。
「小和田邸でヘアセットをしてレモン色の帽子を固定する際に、こことここのピンを外すと帽子がとれますからね、と覚えていただきました」と多田さんは振り返る。
雅子さまも、
「わかったわ、ここね」
と、反復して本番に臨んだ。
「雅子さまが、おひとりで髪型を崩さずに外せる程度の固定強度。でも、婚約会見で大きくうなずいたら、帽子がずり落ちてしまいます。だから、祈るような気持ちでテレビ中継を見つめていました」
会見では、雅子さまが笑顔でうなずく場面もあったものの、無事に終了した。両陛下との夕食を終えて、車で帰宅するニュースを確認してようやく、多田さんは安堵したという。