
――新規事業が「会社の顔」の一つになったんですね。企画書では、5年分の事業計画書を書き上げたと聞きました。
2028年ぐらいまでは書いていました。ありがたいことにチームメートも増えて、Audireがちゃんとビジネスになってきた感覚はあります。アパレルベンチャーの方の力もお借りしてECサイトを運営したり、ポップアップストアも開催したりと、着実に成長しています。
――社外のプロたちとコミュニケーションを取りつつ、社内の調整も図っているんですね。
最初は仕事の大半が調整という感じでした。そのときは、「応援されなくても、まずは理解していただく」ことを一つ目のハードルにしていました。新しいことが必ずしも応援されるとは限りません。でも、アゲインストの風が事業を強くすることもあると思います。事業に対する指摘や課題は「宿題」ととらえ、それをクリアしていく。繰り返すうちに事業が前進していきました。その体感があるから、ネガティブに聞こえる言葉もいったんは受け入れられるようになったと思います。
批判の言葉が重たくのしかかったことも
――Audireの成長につながった言葉で印象的なものはありますか。
「ビジネスのプロじゃないのにね」と言われたことでしょうか。アナウンサーは伝え手のプロとして技を磨いてはいますが、ビジネスは未経験です。「なのにどうしてビジネスを立ち上げるのか」という問いは、傷ついたというより、すごく響きました。その言葉があったから、プロではない私たちが立ち上げることの意義を反芻したし、熟考しましたね。
――それはどのポジションの方から言われたんですか。
社内外いろんな方から言われました(笑)。でも、当たり前のことなんです。会社の稟議を通して、会社のお金で日本テレビの事業としてやるわけですから。いろんなお声をいただきました。
――批判的な言葉も一度受け止めるというのは、体力も気力も必要です。前に進めなくなることはありませんでしたか。
最初のうちは言葉を真に受けて、すごく落ち込んだりもしました。一人で抱えようとして、指摘や批判の言葉が重たくのしかかったこともありましたね。
そういった声に耳をふさいだり、言葉を跳ね返したりするのではなく、いったん受け止めてから取捨選択できるようになってからは、ネガティブな言葉も「それを解消するための宿題」を与えてもらえたと捉えられるようになりました。

ネガティブな言葉にも耳を傾けて
――宿題を解決するために大切にしている考え方や方法はありますか。
Audireを立ち上げるにあたって、いろいろな方にお話を聞かせていただきました。大切にしているのは、誰かに相談するときは自分の考えを持ってから行くようにすること。考えを持たずに人に話を聞いても、ゴールに向かわないんです。自分の考えがベースにあって、そこにいろんな意見を吸収して、考えをさらに醸成させていく。Audireの事業を通して、そうした感覚を持てたことはすごく大きいですね。
――事業を通じて郡司さん自身も変化していったんですね。会社のIRでも紹介される事業になった今は、批判の声も減ってきたのでしょうか。
まだある、というのが事実です。ネガティブな言葉は、耳を傾けようと思えばいくらでも出てきます。いろんな意見があるのは当然ですし、自分のもとに届いた声についてはポジティブなものもネガティブなものも耳を傾けて、「そういう視点もあるんだな」とありがたく受け止めています。
人の声を無駄にするより、いったん受け入れて、そこから選びぬくスタンスは変わりません。イメージは“ざる”です。
――ざる、ですか。
いったんざるに受け止めて、そこから出ていくものもあれば、残るものもありますよね。その残ったものを大事にするような感じです。もっとかっこいい言い方ができればいいんですけど(笑)。