
長嶋さんに言われれば、何が何でも
私が阪神タイガースに移籍した後のオールスターでは監督だった長嶋さんと同じチームになれました。誰が先発するかとなった時に、長嶋さんから「江本、お前行けよ」と言われたことを覚えています。うれしくてね。長嶋さんに言われれば、何が何でも行きますよ。
長嶋さんは人に対して上から目線で見るなんてことは一切ないんです。分け隔てなく、誰に対してもフレンドリー。悪口を言う人は見たことがありません。野村克也さんがヤクルトの監督を務められていた時、長嶋さんのことをボロクソに言うこともありましたけど、野村さんも内心では大好きだったから。壁を感じさせない懐の深さにみんなが魅了されていたと思います。
何を思ったか2001年に私は、長嶋さんを首相に推す「総理大臣長嶋茂雄」という本を出したんです。かなりひねくれた本だったにもかかわらず、一言、お断りに行ったら、長嶋さんは随分と喜んでくれました。
誰からも愛された不世出のスーパースターです。王(貞治)さんも張本(勲)さんも尊敬するスーパースターですが、長嶋さんは崇拝の対象なんです。私はよく冗談で言うんですが、長嶋さんは全く別の星、異世界から来た人だと。
長嶋さんが亡くなられて、昭和が終わったと感じています。今後こういったスターが生まれることは想像できません。戦後から日本が立ち直っていく時代背景の中で、みんなが希望を持つ象徴的な存在でした。幼いころからあこがれ続けた長嶋さんと接点を持てたことに、私は感謝しかありません。
(聞き手・構成/AERA編集部・秦正理)
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