「真水だけ」はむしろ熱中症を高めるリスクも
もう一点、これもすでに多くの人が知る常識だが、熱中症対策で摂取が奨励される飲料は、真水ではない。
暑さで発汗すると体内から水分だけでなく電解質(ナトリウム)も失われる。そこで、のどが渇いたからと真水だけを飲んで脱水を補おうとすると、体内のナトリウム濃度が希釈されてしまい、飲水によるさらなる希釈を防ぐべく、一時的に口渇がおさまり水を飲まなくなってしまうのだ。さらに体としては薄まってしまったナトリウムの濃度をもとにもどそうと、余分の水分を排泄するため尿が出る。
つまり真水ばかり飲んでも、脱水が補正されるばかりか、むしろ助長してしまいかねないのである。万博会場ではウォーターサーバーが設置されるということだが、熱中症対策のために設置するのであれば、サーバーから出てくるのは真水であるべきではない。じっさいのところはどうなのだろうか。もし万博会場のいたるところで、スポーツ飲料が無料でふるまわれるなら、それこそ「いのち輝く未来社会」として画期的なことだと思うが。
万博とは直接関係ないが、熱中症対策としてのスポーツ飲料摂取についての注意点もひとつ挙げておこう。
「ペットボトル症候群」という落とし穴
読者の皆さんのなかにも、酷暑の環境下で仕事をされる方もいるだろう。昔と違い最近では、職場においても上司から「スポーツ飲料を十分に摂って熱中症対策するように」と気遣われることも増えてきているのではなかろうか。
ただ多くのスポーツ飲料には、電解質だけでなく糖分がふくまれている。もちろん脱水を予防したり補ったりするためには、摂取した水分がしっかり吸収されることが必要であり、これらの飲料にふくまれる糖分は、たんに味覚やエネルギー源としての意味合いだけでなく、消化管での吸収率を高める効果をもつことから非常に重要である。
しかし、日ごろからよくのどの渇き、いつも甘い飲み物を多く摂取しがちという人は、熱中症予防とはいえスポーツ飲料の多飲には注意が必要だ。とくに定期的な健康診断をおこなっていない人などが、糖尿病の発症に気づかないまま糖質の多い飲料を飲みすぎてしまうと、一気に高血糖になってしまうことがある。
糖尿病というと、お菓子やケーキの過剰摂取、ご飯類や麺類の食べ過ぎ、多量の飲酒などの食生活習慣を思い浮かべやすいが、毎年夏場に急に糖尿病が悪化した人のなかに「熱中症対策のために飲んでいたスポーツ飲料」が原因であった人が散見される。