トイレ行列が飲水をためらわせる

 4月13日の日刊スポーツのweb記事〈【大阪・関西万博】夢洲駅トイレも長蛇の列「お父ちゃんに怒られるかも」最大で20分待ちも〉によれば、会場への主要アクセスルートとなる大阪メトロ中央線夢洲駅改札のトイレは1カ所で、女性用のトイレには長蛇の列ができたという。

 2億円もかけたデザイナーズトイレも混乱を誘発、入口がわからない客が発生するだけでなく、隣のパビリオンまで延びる「大行列」にもなったようだ。

 これらの事態が、なぜ熱中症のリスクを高めるのか。これも少し思考実験をしてみればすぐにわかる。トイレの大行列に並びたくない、つまりトイレになるべく行かないようにしたいと思えば、人は飲水を控えてしまう。多少のどが渇いても、せっかく並んだ列から離脱してトイレに走らなくてすむよう、なるべく飲み物を控えようとの気持ちは、誰でも抱き得るものだろう。

 炎天下、猛暑、高気温、高湿度、人ごみ、行列……。ただでさえ熱中症が生じやすい条件がそろいすぎている状況で、飲水まで控えてしまえば、症状が出たときには、すでに重度の熱中症を引き起こしている可能性がある。このような人たちが同時多発的に多数発生した場合に、すべての人に万全の対応がとれる対策はとられているのか。

「のど渇いたな」と思ったときには手遅れ

 すでに多くの人が知っていることと思うが、そもそも熱中症対策において、「のどが渇いてから飲む」のでは遅すぎるという事実は今や常識だ。

 人は体の水分量のうち2%程度が失われると、のどの渇きを訴えるといわれている。水分量は体重の約60%とされているから、65kgの成人の場合なら約40kg(=40000ml)が水分だ。この2%、つまり「のどが渇いた」と思ったときにはすでに800mlの水分が失われている可能性があるのである。

 さて、せっかく並んだ長蛇の列。少しずつ人が流れていってはいるが、自分の番になるまでにはまだ数十分から1時間以上かかりそうというときに、のどの渇きを自覚した場合、並びながら800mlを躊躇なくガブガブ飲み干す人はいるだろうか。

 それでのどの渇きが癒えたとしても、尿意をもよおし脂汗をながす事態におちいって、せっかくの列を離脱し、またトイレの列に並ぶことを考えたら……かりに水分喪失量の計算を知っている人であってもそれに見合った十分な水分量を補給しようとする人は、少数派ではなかろうか。

 炎天下、猛暑の万博会場のあちこちで、そのような人が多数発生すれば、先述の私の懸念は、あっという間に現実の悲劇となってしまうだろう。このような悲劇を起こさぬためには、一刻も早く、万博会場のトイレ事情を改善する抜本的対策を講じなければならない。

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