
一方、文系については東大に限らず大学教員や研究者のポストが少ないのが課題だ。
「大学設置基準で最低基準とされているST比(教員1人あたり学生数)は、文系が法・経済学部で約40人、教育学部で約20人に対し、理系は工学部が約10人、理学部や医学部では1ケタ台です」(同)
人文科学系、社会科学系のST比が高い半面、理工学系、医療系はST比が低く、医学と歯学はとりわけ低い。ST比が低いほど手厚い教育や指導が行われるのは言うまでもない。この背景について鈴木さんはこう説明する。
「大学進学希望者が急増した1970~80年代、国は学生の受け皿を増やすべく、文系学部の教員配置の設置基準を相対的に甘くして、理系学部は充実した水準をキープしたため手厚い教育環境が維持されました」(同)
日本の国立大学のコスパの良さが光る
グローバル水準を誇る理系学部と課題を抱える文系学部。日本において、この構図は東大だけのものではないが、海外大学と様々な観点で比較した時に光るのは、日本の国立大学、とりわけ理系学部のコスパ(コストパフォーマンス)の良さだ。
「アメリカの場合、ハーバード大とスタンフォード大については手厚い奨学金制度がありますが、両大学以外は奨学金の対象に選ばれたとしてもかなりの額の授業料負担が必要になります」
欧米には学費が日本円で年間1千万円を超える大学もざらにあり、かりに300万円の奨学金が得られたとしても、かなりの自己負担が必要になる。
「そうなると、事実上、日本の高校生で海外大学にアクセスできるのは、裕福な家庭の子か、ハーバード大やスタンフォード大に受かるものすごく優秀な生徒、つまりべらぼうに賢いか、べらぼうに金持ちかに限定されてしまいます」(同)
日本の大学はどうか。東大は25年度の入学生から授業料を約11万円引き上げ、国が定める上限の64万2960円に設定。値上げとともに、経済的に困窮する学生の支援も広げ、授業料全額免除の対象を世帯年収「400万円以下」から「600万円以下」に変えた。
鈴木さんは言う。
「授業料が上がったとはいえ、年間60万円ほどの授業料で、かつ世帯年収が600万円以下であれば全額免除される東大は、『普通に優秀』でとりわけ裕福ではない家庭で育った高校生も、本人が努力さえすれば世界につながるパスを手に入れられる貴重な国内の受け皿として機能しています」
東大でなくても国際頭脳循環にアクセス可
さらに日本の大学は上位の理系学部であれば、異なる国や地域の人々が自由に移動・交流・協働することで新しい知識や技術を生み出す「グローバル・ブレイン・サーキュレーション」(国際頭脳循環)にアクセスできる。
「東大でなくても『RU11』に入れば、国際頭脳循環にアクセスできるチャンスが得られるわけです。しかも授業料が私立大に比べて低く抑えられている国立の理系学部は授業料負担に対するコスパが特段すぐれています」(鈴木さん)
ちなみにRU11とは、高度な人材の育成に重点を置き、世界で激しい学術競争を続けている大学による国立私立の設置形態を超えたコンソーシアムで、正式名称は「学術研究懇談会」。旧帝大と早稲田大、慶應義塾大、筑波大、東京科学大の11大学で構成している。
国内か海外か。大学の進路の選択肢が広がりつつある今だからこそ、「グローバル」な視点で “学びの質”だけでなく、コスパも見極める必要がある。
(AERA編集部・渡辺 豪)
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