東大安田講堂(photo 写真映像部)

ファンドから資金調達できるか、ばかり

「社会的価値のある事業をどうやって生み育てるかではなく、ファンドから資金調達できそうな事業アイデアを探し、バイアウトするテクニックを学ぶ、といったことに関心の軸が置かれている気がして、事業への向き合い方が自分とは真逆だな、と思いました」

 ファンドマネジャーの講演を聴いたり、アイデアソン(特定のテーマについてグループでアイデアを出し合い、その結果を競うイベント)をしたり、といったサークル活動の場は「爆売れするアプリでも開発して一攫千金を狙ってやろう」という雰囲気に満ちていたという。

 このエピソードから想起されるのは、19年の東大入学式での上野千鶴子さんの祝辞だ。

「あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれない人々を貶めるためにではなく、そういう人々を助けるために使ってください」

 これは「恵まれない人々、弱い者を助ける。それは、エリート層の義務である」というヨーロッパ貴族の考え方として有名な「noblesse oblige」(ノブレス・オブリージュ)に近い価値観だ。龍崎さんは「ノブレス・オブリージュ」を意識している東大生は今となっては決して多くはないのでは、と話す。

 一方で東大出身者の強みについてはこう話す。

「やはりシンプルに優秀かつタフであることに尽きると思います。実際に、多くの東大OBが日本の政治や経済を動かす職場で活躍されておりますし、身を粉にして馬車馬のように働いています。明確な目的が示された上で、適切な裁量と責任と権限を委ねられていれば、ものすごく高いパフォーマンスを発揮すると思います」

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