これが、会社生活で一番楽しかったときだ。女性の営業職員15人ほどと1人ずつ食事へいき、どんな会社を訪ねてどんな客がいるのか聞いた。すると、彼女たちが「いままでの支部長と違う、本気だ」とみてくれたようで、みんなと一体感が生まれていく。

 バブル経済下で保険商品も飛ぶように売れ、成績は伸びるし、営業職員の給与も上がる。みんな、忙しくても仕事を楽しんだ。時代が追い風だったからで、いまは参考にならない体験だ。でも、劇団と同じで、目標へ向かって「みんなが楽しめる場」をつくる大切さは、仕事でも変わらない。そう思ったことを、支社が入っていたビルを見上げながら、口にした。

 そんな経験も基に、2006年4月からの執行役員・勤労部長時代に、営業職員の給与や資格の制度を見直す。新規契約の件数を争うだけの時代は終わっていたのに、制度はバブル期のまま。そこで満期がきた契約をどれだけ更新してもらったかの「継続率」と、後輩の営業職員がどれだけ退社せずに残ってくれているかの「育成率」を、二つの評価指標として、それを「品質経営」と呼ぶ。

 旧来の手法を離さない社内には抵抗が強かったが、社長が「どうしてもやりたい」と言うので、荒療治を断行。悪口も言われても、平気で受け流す。「他人の言う通りにするのではなく、自分で考えて決める」という『源流』からの流れが、勢いを増す。

 2014年4月、社長に就任。在任7年で一番口にしたのが「お客様第一」だ。これは、会長になっても、変わらない。ただ、多様性を尊重する時代、様々な価値観ややり方があっても、否定する気はない。自分も『源流』が流れ始めた中学生時代から「あなたがそう思うのは自由だが、自分はこうやるよ」という姿勢を、貫いてきた。その流れは、これからも続く。

(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2025年5月19日号

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