かねはら・ひとみ/1983年、東京都生まれ。2003年、『蛇にピアス』ですばる文学賞、04年、芥川賞。21年、『アンソーシャル ディスタンス』で谷崎潤一郎賞、22年、『ミーツ・ザ・ワールド』で柴田錬三郎賞。エッセイに『パリの砂漠、東京の蜃気楼』など(写真:小黒冴夏)
かねはら・ひとみ/1983年、東京都生まれ。2003年、『蛇にピアス』ですばる文学賞、04年、芥川賞。21年、『アンソーシャル ディスタンス』で谷崎潤一郎賞、22年、『ミーツ・ザ・ワールド』で柴田錬三郎賞。エッセイに『パリの砂漠、東京の蜃気楼』など(写真:小黒冴夏)
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 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】性加害の告発をめぐる人間ドラマを描く長編小説『YABUNONAKA-ヤブノナカ』はこちら

 『YABUNONAKA−ヤブノナカ』は文芸界を舞台に、性加害の告発をめぐる人間ドラマを描く長編小説。文芸誌の元編集長、木戸悠介は、作家志望の女性から過去の性的搾取をネットで告発される。木戸、告発者、若手の編集部員、作家とその恋人、引きこもる娘、木戸の高校生の息子らがそれぞれの視点から語り、事態は意外な結末へと向かう。題名は、一人の侍の死について複数の人が語る、芥川龍之介の短編小説「藪の中」から。著者の金原ひとみさんに同書にかける思いを聞いた。

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 過去の性的搾取をネットで告発するという、まさに現代的なテーマを取り上げた。「今、書かなくては」という切迫感があったと金原ひとみさん(41)は語る。デビューから20年余り、フェミニズム的なものとどう関わるべきなのかを図りかねていた。

「うねりが激しくなっている今の状況を見ていて、一度自分の言葉で物語に落とし込んでおかないといけないと思いました」

 自らもセクハラ的なものをいなしてきた罪悪感、敗北感と無縁ではない。自分の考えを小説で伝えるのがいちばん誠実なやり方だと考えた。

 この作品では元文芸誌編集長の男性が、作家志望の女性から過去の交際を性的搾取だと告発される。そこに悪を徹底的につぶす「悪のような正義感」を持つ作家の女性、マッチングアプリで女性と会いつつ女性嫌悪を深めていく編集部員、新しい価値観の高校生らが関わり物語は展開する。

 作中には〈打ち上げ花火が上がって、同じ痛みを持っている人たちが照らされた自分の古傷を見出す。あれは断罪されるべき罪なんだと気づかされていく〉という一節がある。2017年にアメリカで起きたMeToo運動をきっかけに、性加害に注目が集まった。ニュースで見聞きするにつれて、自分が受けた被害の記憶がよみがえり、許せない気持ちがふくらんでいく。

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