
仕事ではないものの、日常生活では金原さんも許せないと思うことがある。
「相手がのうのうと生きていると思うと、こんなことが断罪されずに放置されていていいのか、という気持ちになります。収まったと思っていた怒りが一瞬にして当時とまったく同じ勢いを取り戻すことがある。それは、まだ終わっていないから。最近の告発は必然的な流れだと思います」
物差しがめまぐるしく変わる今の時代、価値観の更新についていける人、いけない人がいる。
「グラデーションがあって、上の世代は頭が固いなと感じるし、下の世代を見ると潔癖だなと感じる。この人はこの時代を生きてきたから、この業界にいたから、と理由づけができると、気持ちが想像できて楽になると思います」
執筆中は、伝わらないのではないか、届かないのではないかという不安と迷いの中にいるという金原さんだが、本作では「文学が世界を変えられるか」という話にも触れている。
「フィクションに限界はあるのはわかってはいるんですけど、変えられるということをどれだけ信じているかによって小説の強度は変わってくる。気持ちが負けないようにと思って書いています」
(ライター・仲宇佐ゆり)
※AERA 2025年5月19日号
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