大逆事件で刑死した管野須賀子と関東大震災後の混乱の中で虐殺された伊藤野枝。明治時代に生まれ、逆風を受けながらも女性解放のために動いた二人の生の軌跡を丹念に追った一冊だ。
 年齢差は14歳ながら生前は交わらなかった二人。だが、管野の刑死の翌年に伊藤が論壇にデビューしたのは歴史の必然なのだろう。二人は生い立ちこそ異なるが、ともに世間や国家権力に押しつぶされそうになりながら、もがき、個人の自由を目指した。自らが捨て石になり、死を覚悟して理想を実現しようとした姿勢も重なる。
 果たして女性は自由になれたのか。二人が100年前に抱いた慣習や女性差別への違和感は横たわったままだ。彼女たちの言説が現代に照らし合わせても、古びていないことが皮肉にもそれを物語っている。

週刊朝日 2016年12月16日号