
実際に転職する人は3割程度
桜井さんによると、ゆる転職活動の場合、実際に転職する人は3割程度。3~5社ほど面接を受けた結果、転職しない選択をする人も多いという。逆の見方をすれば、約7割はゆる転職活動の結果、結局、転職していないのが現実だ。その理由を桜井さんはこう解説する。
「今は超売り手市場。多くの選択肢から自分でその会社を選んで入社した人も少なくありません。転職活動を通じて、改めて自社のよさに気づくこともあります。そう簡単に離れる気にはなれなかった、ということでしょう」
若手の早期離職の増加を受け、「今の職場」が離職防止の強化を図る過渡期にあることも念頭に置くべきだ、と桜井さんは言う。
「転職潜在層」との関係づくりも
「最も効果的なのが初任給アップです。他にも、ワーク・ライフ・バランスに配慮し、リモートワークの導入や育児中も働きやすい環境を整備したり、転勤も希望制にしたり、ハラスメントの対応窓口も充実させたり、と多くの会社が競うように待遇改善や制度改革を打ち出しています。こうした変化も見極めつつ、転職の判断をするのも有効な選択だと思います」
ゆる転職活動には、転職スカウトとの接触や面接といった行動以外のバリエーションもある。
レジャー関連のオンライン事業を展開する「アソビュー」(東京都品川区)は、将来的に転職候補者になり得る「転職潜在層」にアピールする「ミートアップ」を23年以降、計4回開催している。社外の参加者は数人ごとのグループに分かれ、おやつをつまみながら和やかな雰囲気で自身のキャリアイメージを社員と語り合う交流イベントだ。
同社は通常の中途採用業務との違いをこう説明する。
「通常の中途採用業務は、今まさに転職活動をしている『転職顕在層』をターゲットにスカウトや求人広告でアプローチしているのに対し、ミートアップでは将来的な採用につながる可能性のある、まだ積極的に転職を考えていない『転職潜在層』との関係づくりが目的です」
同社のミッションや事業内容、文化に興味を持ってもらい、長期的に接点を持ち続けることを目指しているという。背景には、中途採用は事業状況や退職などに応じてニーズが変動しやすく、かつ大きなコストをかけられない事情がある。ミートアップの参加を機に入社した社員はまだいないが、参加者を通じ、「転職活動している友人がいる」「キャリアで悩んでいる友人がいる」といった情報が寄せられる機会も増え、緩やかなコミュニティーが形成されているという。
キャリア形成に意欲的な人材に魅力
若手に企業がアプローチする背景には、キャリア形成に意欲的な人材ほど採用後に活躍する可能性が高いことも挙げられる、と桜井さんは指摘する。
「特にテクノロジー領域は変化のスピードが速いため、自分で興味を持って主体的にスキルを磨く努力を重ねるタイプでないと活躍できません。そのため、社外の人とも積極的に交流し、互いに学び合う文化に精通している人は企業の採用戦略にも合致するケースが多いはずです」
桜井さんは、今後も若手のゆる転職活動は増えると見込んでいる。
「自分のキャリアや働き方を選ぶトレンドは定着していくと見ています。特に今の若手は転職してきた管理職のもとで働くケースも増えており、転職が一層ポジティブに映る環境にあるともいえます。若手の離職を防ぐため、企業側には従業員に対して成長機会を提示し、自分らしく働ける環境を担保する制度設計を図るとともに、それを企業文化として根付かせる努力が求められています」
(AERA編集部・渡辺 豪)
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