鴻上尚史さん(撮影/写真映像部・小山幸佑)
鴻上尚史さん(撮影/写真映像部・小山幸佑)
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 誰かの「大切な人」になりたいーーそんな思いを諦められないという62歳女性。「諦めきれない。腐った性根を何とかしたい」という女性に対し、鴻上尚史は「大切にされたいという思いは当たり前の感情だ」と指摘する。その上で鴻上尚史が伝えた、「大切にされたい」という気持ちに振り回されないための第一歩とは。

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【相談256】

一度でもよいので、誰かの「大切な人」になりたいです(女性 62歳 ゆうこ)

 こんにちは、公的機関に勤める女性です。

 私はこれまで人から愛された経験がありません。それは恋愛に限ったことではなく、親兄弟からもです。よく母親は無条件に子供を愛する、といいますが、私の母は軽度の知的障害のためか、自らの意思が希薄な人でした。父は自己中心的で自分がどう思うかという思考しかできない人でした。姉が一人いますが、幼い時から可愛がられた記憶はありません。

 若いころの両親は貧しく自営業であったため、私はよく近所の家に預けられていました。2 歳位の記憶ですが、おそらく私がいたずらかトイレの失敗をしたのかで、寒い夜に下着姿で表に出されたりしていました。姉は、母方の親戚に可愛がられていたので、そちらに預けられていたようです。物心ついた頃から一人で生きてきたような、どこにも居場所がない、安心安全な生活でなかったと思います。

 自立を願い、家を出て仕事をしてきましたが、私が30歳の頃に家業が傾きだしたのをきっかけに父のアルコール依存症が酷くなり、母だけでは支えきれなかったので、同居をしました。私が40歳の時に、両親とも病気で亡くなりました。私が両親の世話をしている間に姉と親戚とは遺産で揉めたので、相続放棄をして縁を切りました。

 父が死んだ時、私の一人の人としての人生が40歳から始まったと感じました。ずっと、誰に頼ることもできない中で生きるために闘ってきましたが、残ったのは、生活のための借金だけです。誰からも愛されることなく、気に留められることのない人生です。一人でいると安心で、寂しいとか孤独という感情は感じません。愛情を受けたことがないので、喪失していないからだと思います。

 今は仕事をしていて、人との接触はありますが、退職後は本当に一人になるのだな、と覚悟しないといけないですね。生涯一度でいいので、嘘偽りなく私のことを大切に思ってくれているという瞬間を得たいな、との思いが諦めきれずにいます。

 腐った私の性根を変えるにはどうすればいいでしょうか。(62歳 女性 ゆうこ)
 

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