
「ここまでの活躍は想像以上だった」
渡部は広島県出身。広陵高から大阪商業大に進み、関西六大学リーグ通算打率.355、9本塁打、66打点を記録。リーグ通算119安打はリーグ最多タイ記録だった。大学球界屈指の強打者として評価を高め、昨秋のドラフトでは1位の有力候補とみられたが、西武に2位指名されるまで名前が呼ばれなかった。広陵高時代に同学年だった明治大の宗山塁(楽天)は「大学№1野手」と評され、5球団が1位で競合。青山学院大のスラッガー・西川史礁(ロッテ)の指名でも2球団が競合した。大学生野手では富士大の麦山祐介(オリックス)、青山学院大の佐々木泰(広島)が「外れ1位」で指名されている。
渡部は、なぜ1位指名が見送られたのか。セ・リーグ球団のスカウトは複雑な表情を浮かべる。
「ドラフト前のスカウト会議では1位の有力候補として指名を検討していましたが、少しインパクトが弱かったんですよね。広角に安打を打てるのですが、引っ張った強い打球が少なかった。長距離砲が欲しかったので、優先順位が下がってしまいました。ここまでの活躍は想像以上でした。まだシーズンが始まったばかりなのでこれから研究されますが、長打を打とうとして力まない限り打撃が大崩れすることはないでしょう」
かつてパ・リーグ球団で編成担当を務めていた独立リーグの指導者は、「渡部は高度な打撃技術が伝わりにくい選手です。大学のリーグ戦の打席を見ると詰まった打球が少なくないですが、ヒットゾーンに飛ばせる。振り遅れているのではなく、手首をギリギリまで返さずにミートしているから、詰まらせながら外野の前に打てる。飛び抜けた長打力を感じられなかったので1位指名されなかったのかもしれませんが、西武は良い選手を獲得しました。新人王を十分に狙えますよ」と太鼓判を押す。
シーズンが始まる前から、渡部は他球団の間で話題になっていたという。オープン戦で西武と対戦したセ・リーグ球団の打撃コーチが振り返る。
「いい打者が入ってきたという情報は聞いていましたが、実際に見てその通りだなと感じました。個人的には宗山や西川より印象に残っています。センターから逆方向に強い打球が打てるのは、下半身の粘りでタイミングを合わせられるから。あの打撃技術を身に着けている若手はなかなかいない。タイプとして近いのが宮崎敏郎(DeNA)です。首位打者の常連になれますよ。スイングスピードが速いので、打球の角度が上がれば自然と本塁打も増えるでしょう」
西武のドラフト2位で名前が呼ばれた際、ホッとした表情を浮かべていた渡部だが、「(1位指名されなかった)悔しさもある」と思いを吐露していた。プロは結果がすべての世界だ。大卒の牧秀悟(DeNA)はドラフト2位で入団し、球界を代表する打者に駆け上がっている。渡部は牧と重なる部分がある。打席で落ち着き払った雰囲気は新人離れしており、筋肉隆々の肉体に独特のオーラが漂う。人気も急上昇中で、SNSのファン投票によるニックネーム選挙で愛称が「せいやん」に決まった。
昨年の悔しさを糧にチーム再建を目指す西武。待ちわびた新しいスターが、打線を牽引する。
(今川秀悟)