「じいじ ばあば」という言葉を聞かされる気恥ずかしさ。こんな声もある。
神奈川県の43歳の女性は、現在11歳の長男を育てる過程で、祖父母のことは「おじいちゃん おばあちゃん」と呼ばせてきた。
周りの人が「じいじ ばあば」を使っていたとしても全然嫌な気はしない。ただ、自分が使う言葉としてはしっくりこない、と話す。理由は自身が地方(青森県)出身であることからくる「気恥ずかしさだ」と言う。
「『じいじ ばあば』って都会の人が使うイメージがあるんです。それを田舎者が使う気恥ずかしさ、ですかね。『ベビ』『旦那くん』『息子くん』などの流行り言葉を無邪気に使う気になれないのと、私の中では根っこは一緒、な気がします。いずれにしても私の記憶にいるのは『じいじ』ではなく『おじいちゃん』だし、『のび太のばあば』ではなく『のび太のおばあちゃん』。要は、昭和でかつ変化を嫌う田舎者なのかも(笑)」
この女性の声をどうとらえるか。
実は先に紹介した国立国語研究所のコラムでも、「じいじ ばあば」の使用状況には地域差があり、「首都圏や東海地方を中心に使われている言葉のよう」で「そこから遠ざかるほど数値が下がる傾向」があり、とくに「首都圏の50代以下の女性の数値は突出」と記されている。石黒教授はこのことと、「じいじ ばあば」を使う人がよく言う「おじいちゃん おばあちゃんだと年寄りくさいから嫌」という感覚はつながっているのではと指摘する。
「いま日本の社会全体に、年を取ることを極端に怖がる空気を感じます。とくに都会の人の中で『若さを保ちたい』という欲求が強く、それは服装やメイクなどにも表れますが、実は言葉遣いも『自分がどう見られたいか』という点で服装やファッションと同じなんです。都会の人たちが『年齢感覚があまり感じられない言葉』を好んで使う傾向は、たしかにあると思います」
それに対し、地域に根差してある種の「年代的な役割」が強く規定された社会の中で生きてきた人にとっては、自身のアイデンティティーに照らしても、「年寄りくささを出さないための『じいじ ばあば』という言葉」は感覚的に受け入れられないのかも、と石黒さんは言う。