セクハラや性被害を報じ、社会を変革していく役割を担うマスコミ。そのマスコミこそ、深刻なガバナンス不全を抱えている
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 男性中心のマスメディア業界で、女性記者やアナウンサーがセクハラの被害に遭わないために変わるべきことは何か。フジテレビの一連の問題を例に専門家の見解を聞いた。AERA 2025年5月5日-5月12日合併号より。

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 近年、女性記者やアナウンサーらマスメディアで働く女性たちが取材先や共演者などから深刻なセクハラ・性被害を受ける実態が明らかになってきた。その背景には、取材環境の特殊性もありそうだ。

 大手新聞社に勤務する40代半ばの女性記者は、政治部に配属された時の違和感が忘れられない。

「永田町に来た途端、『田舎みたいなところに来ちゃった』と思った。都会ではあり得ないようなセクハラがあり、それは政治家も記者も圧倒的に男性が多いからだと感じた」

 取材手法も独特で、いかに内輪の飲み会に誘ってもらえるかが大切。空気を読まずに質問するのが記者の仕事だと理解していても、嫌われると取材がしにくくなる。「問題意識を持たない方が楽だから、おかしいことをおかしいと思わなくなっちゃうのかもしれない」

 世間から乖離しているため、政治家から時々驚くようなハラスメント発言が飛び出すのだろう、と感じたという。

 社内では年々、「セクハラは許されない」という意識が広がった一方、かつてセクハラをしていた男性が管理職として残っているのが現実だ。

 女性記者は「人事の評価軸が(組織内の男性たちのコミュニティーを優先させる)オールド・ボーイズ・クラブ。変化は感じるけど、スピードが遅い。会社も永田町も、中心になればなるほど(女性の昇進を阻む)ガラスの天井が厚い」とため息まじりに話す。

 テレビ局も男性が多い職場だ。社員だけでなく、番組出演者の男女比にも偏りがある。

 NHK放送文化研究所の「テレビ番組におけるダイバーシティー」調査報告(23年度)によると、調査対象としたNHKと民放キー局の1週間の番組全般の出演者のうち、男性は女性の1.5倍。アナウンサーやキャスターの女性は20代と30代では男性よりはるかに多いのに40代で逆転。50代では男性が3.4倍、60代では15.5倍だった。調査は21年度から行っているが、「中高年の男性と若い女性」の構図が続いている。

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