
何かと話題に事欠かない大阪・関西万博。だが混迷と紛争が続く世界に共生へのメッセージを送る意義もある。「いのちを知る」テーマのパビリオンを担当した福岡伸一氏に聞いた。AERA 2025年5月5日-5月12日合併号より。
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──福岡伸一氏が参加する「シグネチャーパビリオン」は、各界で活躍する8人の事業プロデューサーが展開。福岡氏は唯一の生物学者として、いのちとは何かという問題に真正面から取り組み、その答えとして「いのち動的平衡館」を完成させた。
福岡氏(以下、福岡):生命にはDNAがあるなど、いろんな定義の仕方がありますが、実は生命が持っている一番大事なポイントが動的平衡だと思っています。
動的平衡とは、生命は絶えず環境から物質、エネルギー、情報を細かい粒子の形で自分の中に取り込み、それは一瞬動的な形で生命現象を立ち上げるけれど、直ちに壊されて他の生命に手渡され続けるという、生命のあり方を示す私の生命哲学です。
生命の進化というのは、どうしても弱肉強食や優性劣性の闘争、競争の歴史と捉えられがちですが、むしろ競争よりも協力、闘争よりも共生、利他的な助け合いによって大きく進化してきた。パビリオンでは、原核細胞から始まった生命が38億年の歳月をかけて三つの大きな利他的な協力によって進化してきたことを表現し、いのちとは何か、なぜ輝くのか、というメッセージを発信しています。
万博を開催する意味
福岡:世界中で分断が深刻化し、格差や対立が進んでいます。その中でやはり万博という祭典を行う意味は、1970年の万博のようにテクノロジーの祭典というだけでは済まず、この新しい分断や対立を乗り越えていくような理念や哲学をもう一度みんなで共有する場でなければいけないと考えています。
人間だけが特別な生物ではなく、人間はむしろ地球環境に大きな負荷をかけている、最凶最悪の外来種。生命の基本原理は利他性であるにもかかわらず、非常に利己的に振る舞っている人間というものに対して、反省や自省、あるいは行動変容が必要だと思います。
生命の利他性、あるいは生命全体が実は大きなネットワークとして絶えず助け合いながら循環を繰り返して、38億年の歴史が一度も途切れることなく流れ、その中に人間も連なっているというメタ視点を持つことで、もう一度人間という生物を考えると、分断や対立というものを乗り越えていくことができ、生命原理というものを再発見できるのではないでしょうか。
