泉田知事が特に強く求めたのが「安定ヨウ素剤」だった。事故によって原発の外に放出された放射性物質を吸引する直前に服用することで、のど元にある臓器・甲状腺に放射性ヨウ素がたまるのを妨げ、がん発症を低減させる効果があるとされる。
規制委が定めた原子力災害対策指針では、事故発生後すぐに避難するPAZ(5キロ圏内)では事前に配布する一方、屋内退避するUPZ(5~30キロ圏内)では空間放射線量が基準値を超えて避難する際に一時集合所などで配布する(緊急時配布)のが原則となっている。原発避難計画をめぐるリアリティーの欠如が顕著に表れている課題だった。
「新潟県の30キロ圏内には40万人が居住しており、数時間で配るのは極めて難しい」
泉田知事は、指針を改めるよう求めた。
これに対して、田中委員長は「ご要望の趣旨は理解したつもり」「40万人の方に数時間で配るのは不可能だというのはたぶんおっしゃるとおり」としながらも、指針見直しについては何も明言しなかった。
全国知事会からの提言を受けて、政府は2016年4月、自衛隊や警察など実動組織の協力などについて協議する「原子力災害対策関係府省連絡会議」を設置した。
しかし、実施された会合はわずか2回。三つの分科会から上がってきた結論を基に、道府県に対して現地の警察や自衛隊と連携するよう求めただけ。
全国知事会からの提言に対応した体裁を取る目的だったのは明らかだった。