自分の気持ち、伝えて大丈夫

 過食嘔吐が止まらず、コンビニに買いに行って食べては吐くを繰り返し、1日1万円ほどを使った。家賃も払えない、何のために生きているかよくわからない。どうにもならなくなったときに思い出したのは、大学の授業で相談先として出ていたBONDの存在だった。「面談希望」とメールを出し、BONDのスタッフと面談したのをきっかけに、シェルターでの生活が始まった。

 最初は誰も信じられず、「この人も私のこと叩たたくかも」と思うと怖かった。それでもスタッフは、自傷行為やオーバードーズがやめられない自分を「大丈夫だよ」と否定せず、心配してくれた。これまではずっときょうだいのことが優先で、自分のことは後回しだった。自分のことだけを見て心配してくれる人に出会えて、「自分の気持ちを話してもいいんだって思えるようになった」。初めて「人との関係を切らない」ことを教えてくれたのが、スタッフだったと思う。

 スタッフとしても働き始め、繁華街をまわって声かけをし、自分と似た境遇の若い子たちからの相談を受けることも増えた。彼女たちのリストカットやオーバードーズを「どうしたら止められるんだろうね」と一緒に考えることで、リストカットやオーバードーズをしていた自分自身の気持ちにも向き合うことができる。

 それでも、すぐにオーバードーズは止められない。安倍晋三元首相の銃撃事件を機に、さまざまな新興宗教の被害にあったという声が日夜ニュースになった。そのころ、体調も落ち着きひとり暮らしをしていたが、ニュースを見て、大学で初めて虐待について知ったときと同じような状況に陥った。

「自分の家でお経をあげてたのって普通じゃないんだ」。高額献金をしたことはないけれど、宗教にのめり込む親の姿は、ニュースで知る宗教で身を滅ぼしていく人たちと重なって見えた。次々に記事を読むうちに、これまで信じていたものがぐらりとゆらぐ感じがした。今はなるべく宗教に関連する報道を見ないようにしたり、相談を受けるなかで宗教に関する相談があったときには別の人にお願いしたりするなど、工夫をして過ごすようにしている。

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