米との交渉で浮上しない「軽自動車」

 さらに、EVなどクリーンエネルギー自動車への補助制度で、燃料電池自動車だけが最大255万円の補助を受けられる点が、事実上水素自動車を販売している日本メーカー(トヨタ)向け補助金になっていて不公平だというのもそのとおりなので、EV並みの最大85万円に引き下げるべきだ。

 しかし、この程度の「改善」でトランプ大統領が満足するとは考えられない。

 いろいろ考えたが、思いつくのはジョークばかりだ。たとえば、石破茂首相が、記者会見を開いて、「トランプ大統領の要望を受け入れ、ボウリングテストを廃止した」と発表するのはどうだろうか。「石破はいい男だ」と評価してもらえるかもしれない。

 実は、こうした非関税障壁の見直しが米側から持ち出されるのはいつものことだ。私が経済産業省にいる頃も度々そうしたことがあった。特に私が課長補佐時代に関わった1989年に始まった日米構造協議では、かなり多くの障壁が取り除かれた。当時の米側の指摘の中にはもっともだと感じるものも多く、私は、日米の事務レベル交渉の場で、他省庁に改善を求める発言をして霞が関でめちゃくちゃ叩かれた覚えがある。当時は、日本側にもかなりの非があったのだ。

 その後、TPPなどを含めさまざまな交渉の場で同じようなやり取りが行われ、日本側の制度はかなり改善された。したがって、残っている問題は、上記のEV関連のように最近出てきた問題か、以前から米側が言っているがほとんど言いがかりに近いような話ばかりである。

 つまり、日本側は、譲歩しようにも譲歩できないので、極めて厳しい状況にあるということになる。笑い話のような話だが、農業のように相手の言い分が正しく、日本の消費者にも恩恵が及ぶというような譲歩のタネがない。

 そもそも、誰もが知っているとおり、米国の自動車を欲しいと思う日本の消費者は極めて限られている。「本来、自動車とはこういうものだ。だから文句を言わずに買え」というが如き米国の態度には、反感を覚える人の方が多いかもしれない。

 そんな中で、今回、米国の報告書を見て気づいたことがある。それは、軽自動車の話が出ていないことだ。私が交渉に携わっていた頃は、何回も、「日本の軽自動車規格は、世界でも例がなく、そのために特別な開発が必要になるため、外国車にとって大きな非関税障壁になっている。税金が特別に優遇されているのも事実上の外国車差別だ。これを直ちに撤廃せよ」という極めてもっともな要求が突きつけられた。しかし、軽自動車は、日本の庶民の生活に根付いているもので、これをなくすとなると、自動車メーカーはもちろん国民からの反発が予想されるため、コメを守るのと同じように、米側に対しては、これはいくら言っても無理だと門前払いを続けてきた。

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