
中国BYDが日本の軽自動車市場に参入
しかし、トランプ大統領の相互関税というバズーカ砲を炸裂させながら行われる今回の交渉では、きっとこの要求が出てくるだろうと私は予想していたので、それが入っていないことは意外だった。もちろん、国土交通省や経済産業省はほっと胸を撫で下ろしているに違いない。
そんな微妙な時期に、驚くべきスクープ(日本経済新聞、4月21日配信)が入ってきた。世界で唯一テスラと互角に戦う中国のBYDが、2026年にも日本の軽自動車市場に独自開発のEVを投入するというのだ。
BYDは24年にバッテリーEVを約176.5万台販売し、テスラの約178.9万台に肉薄した。テスラとBYDは2強と言って良いだろう。BYDは、テスラと違い、EVだけでなく、PHVも販売しているが、これを合わせた販売台数は約427万台(うち乗用車販売425万台)でトヨタ以外の日本メーカーを全て抜いて、世界6位まで上がった。24年10〜12月期の販売台数は約152万台で、ステランティスも抜いて、トヨタ292万台、フォルクスワーゲン250万台、現代・起亜183万台、GM174万台に次ぐ5位になっている。BYDはガソリン車を販売していないので、驚くべき数字だ。
BYDの強みは、航続距離や充電時間などでEVに不満を持つ消費者に世界最高性能を実現したPHVを提供できることだ。24年の乗用車販売でも、EVが約176.5万台(12.1%増)に対して、PHVが248.5万台(72.8%増)と驚異的な伸びを示している。
BYDのPHVは航続距離2100キロを誇り、トヨタなどをはるかに引き離している。エンジン性能も世界最高レベルだ。追いつくには数年かかるだろう。その間に、BYDはEV・PHVの二刀流販売戦略で日本車の牙城であるアジア市場をはじめ世界進出を急速に展開すると見込まれる。トヨタなどはHVで稼ぐ戦略をとってきたが、HVよりも性能が高く、しかも価格も同程度のPHVが出てきたことで、HV中心の日本メーカーはBYDに駆逐される恐れさえ出てきた。
それは日本市場も例外ではない。BYDは、25年末にPHVを日本で販売すると発表している。BYDは日本では、EV販売でまだテスラと日産にかなり引き離されているが、トヨタはすでに上回っている。PHVを投入すれば、EVとの相乗効果で一気に販売が加速する可能性がある。日本のHV陣営にとっては、それだけでかなりの脅威だ。
しかし、日本の自動車市場は特殊で、軽自動車が販売台数で4割近くを占める。したがって、残りの6割の市場だけで争ってもBYDは日本メーカーに勝つことは難しい。
そこで、今回の報道にあったように、軽自動車EVを投入して本格的に市場攻略を目指すことにしたのだ。軽自動車をゼロから開発する海外メーカーが出てくると誰が予想できただろうか。しかも、BYDが日本市場に参入してからわずか2年で軽自動車の販売を発表したのは驚き以外の何ものでもない。日本市場を攻略しようとする並々ならぬ決意が伝わってくる。