トヨタのEVは実質「中国車」になる?

 ここで、米国と中国の自動車メーカーを比較してみよう。米国は、自分が作った車を日本向けに改良する意欲など全く持たず、ごく一部の車を除き、日本の基準、規格を米側に合わせろと居丈高に要求する。そして、米国車が売れないのは日本側がズルをしているからだと騒ぎ立てる。バカデカくて燃費の悪い左ハンドルの車を買えと日本の消費者に迫っているのだから始末が悪い。

 一方、BYDは、極めて製造コストがかかる、日本でしか通用しない軽自動車をゼロから巨額の投資をして超スピードで開発し、さらにEV・PHVの性能と利便性の高さで日本の消費者にアピールしようとしている。

 戦わなくても勝敗はわかる。

 石破首相は、トランプ大統領に、「アメリカ車を売る方法を教えます」と囁いてみれば良い。「どうやればいいんだ」と聞かれたら、「BYDを紹介するので、彼らに教えを請えば良い」とアドバイスしてはどうか。

 また冗談になってしまったが、それくらいしか米国車の販売を飛躍的に伸ばす方法はないのではないか。

 実は、日本にはこんな話をして笑っている余裕はない。

 私が指摘したいのは、今回紹介したBYDが凄いという話だけではない。電池、素材、部品など、日本がリードしていた自動車産業のエコシステム全般で中国に追い越され、自動運転、AI利用と5G・6Gを前提としたインフラ整備、クルマのスマホ化と生活のスマート化の一体的推進、ドローンやロボットとの融合など自動車関連で中国の先行を許した分野ではさらに引き離される現実がある。

 詳しく見れば見るほど、その深刻さは増していく。

 今後、トヨタなどが中国で製造販売するEVは、表は日本メーカーの車ということになっているが、中身を見れば、主要部品、自動運転を含む中核システム全てを中国企業に頼って作ることになる。それはほとんど中国車と言って良い。

 今一番必要なことは、トランプ自動車関税をはるかに超える大きな危機がまさに自動車業界を襲っているということを直視することだと思うが、トランプ関税にばかり目を奪われて、日本政府にその余裕はなさそうだ。

 トランプ台風一過。気づいてみれば、もっと大きな津波にのみ込まれていたということにならなければいいのだが。

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