積水ハウスが2017年に被害に遭った地面師事件の舞台になった土地は、別の企業が本当の所有者側から買い取った。今は30階建ての高級タワーマンションが立っている

積水ハウスを貶める作品を出すわけにはいかない

――「地面師たち」はなぜNetflix向きの作品なのでしょう?

「積水ハウス地面師詐欺事件」をモデルにしている以上、テレビドラマでも映画でも実現できなかったと思います。積水ハウスは、テレビ局にとっては大切なスポンサーであり、映画会社にとってはシネコンやビル開発を行う上でのビジネスパートナー。そんな企業を貶(おとし)めるような作品を出すわけにはいきません。

 そうした忖度が必要ないNHKに持っていく手もありましたが、NHKでは暴力描写や性描写に大きく制限がかかってしまう。「地面師たち」はNetflixの自由度の高い環境だからこそ世に出せた作品です。ピエール瀧さん(※2019年に麻薬取締法違反の罪で逮捕)を起用するにあたっても、Netflix側は何も言わないどころか「いいですね、ぴったりですね」と即OKでした。

――「地面師たち」の制作現場において、テレビドラマとの違いは感じましたか?

 現場を取り巻く“構造”はかなり違いますね。

 生々しい話になりますが、まずは予算。Netflixいわく「作品の質を担保するために適正な予算を出している」とのことでしたが、僕が経験してきた作品と比べるとかなり潤沢でした。撮影期間も十分にもらえましたね。テレビドラマは通常1クール10話前後を3カ月間で撮影しますが、「地面師たち」は全7話を半年かけて撮影しました。

 その代わり、作品のクオリティーコントロールは徹底しています。たとえば、撮影前に行われるカメラテスト。通常はスタッフ間で映像の質感やトーンを決めるために行われますが、Netflixの場合は役者の衣装やメイク、美術セットを本番同様に仕上げたうえで短いシーンを撮影し、プロデューサーに確認してもらいます。そこで「しょぼい」と判断されたら、本番には進めません。

 要するに、恵まれた制作環境を提供する代わりに、世界に配信しても通用するレベルの作品をつくれというミッションが与えられるわけです。

〈【後編】Netflix「地面師たち」の大根仁監督が、「それでもテレビはオワコンじゃない」と語る理由 へ続く〉

(AERA編集部・大谷百合絵) 

[AERA最新号はこちら]