かなでさんにとって、スピリチュアルな能力を発揮することと、社会性が損なわれることは、表裏一体だったのかもしれない。そのころの借金は、今も返し続けている。現実的なお金の問題と、スピリチュアルな能力、真逆とも言える世界を行き来しているのだ。

「執着とか不安って、地球じゃないと楽しめないらしいじゃないですか。だからギリギリで何とかなることを楽しんでいる自分がいるんじゃないかなって思ったりもします」

 そして、こんなことも言う。

「俳優としては、いろんな経験をできて良かったと思うんです。私、最初に出た映画で、アルコール依存症の役を演じたんですけど、破綻した結婚生活を経験しなければできなかったと思う。平凡な人生より、波瀾万丈なほうが楽しいし。……でも、ちょっと疲れたかな」

 それでも今は、やりたいことを満喫している。俳優をしながら、アルバイトをし、クチコミで話がくればスピリチュアルカウンセラーの仕事もしている。

「一応、私がチャネリングで強いのは、過去世を見ることですね」

 サラリと言う。

「私には、何か見えますか?」

 そう聞くと、かなでさんは、しばし私を見つめて言った。

「うーん、見えないですね。……なんでだろう。やっぱりモードが変わるので、見ようとするには、合わせていかなきゃいけないんですよ」

 インタビュー中だったので、モードが違ったらしい。しばらく別の話題に移った後、ふいにこう言うのだった。

「宇宙人じゃないですか。……うん、ちょっとつながり始めた。どっかの宇宙人だ。地球でいろんな人の経験を聞いて楽しんでるんでしょう。たぶん他の銀河では、学者のような人なんだと思いますよ」

 私は動揺した。現実離れした話ではあるが、実は、別の“見える系”の人からも同じことを言われたことがあったからだ。その上、私の名前には、謎の★マークまでついている。

「ハハハッ! まあ、そういう可能性もあるぐらいで聞いてくださいね。宇宙も多次元的にあるから、どこの宇宙かもわからないですし」

 かなでさんは、無邪気に笑う。

「いろんなパラレルの地球があって、私も多次元的にいるんだろうと思います。私たちは、今日この瞬間は一緒に同じところにいるけど、インベさんがこれからどのパラレルに行くかはわからないし、今日のインベさんが、次に会うインベさんと同じ人かどうかもわからないですから。自分でも、何言ってるのかわからないけど。ハハハッ!」

 そう言うと、話に夢中でまったく進んでいなかったパンケーキの最後の一切れを、口に放り込んだ。

 ファミレスを出ると、外はすっかり暗くなっていた。私は、そびえ立つオフィスビルを見上げ、ひょっとすると今日は、このビルで新卒から働くかなでさんをインタビューしていた可能性もあったのかな、と思い、不思議な感覚に包まれた。

こちらの記事もおすすめ 【前編はこちら】40代女性「自分で壊したんです」 “いい妻にならなきゃ”が強すぎて…「結婚生活」が破綻したワケ
[AERA最新号はこちら]