
全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2025年4月28日号にはファンケル 管理本部品質保証部次長 兼 品質保証グループ課長 阿部泉さんが登場した。
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ファンケルの化粧品や健康食品、そのパッケージなど製品全般の品質を確認する。確認作業は、研究開発の段階から、生産、販売後にわたり、医師や薬剤師など外部有識者とも連携する。
「発売から数カ月後、特に何もなければ『よし、よし』とひと安心します」
利用者の声に耳を傾けつつデータを整理する。「ファクトを追い、ファクトをきちんと見定めることが仕事」という。
品質確認の種類は幅広く、当初は全てを網羅する知識を持ち合わせていなかった。そのため、各部署の担当者とコミュニケーションを取り、新たな知見を取り入れ、前進してきた。
立場上、相手にノーを突きつける頻度が高い。だからこそ、意識しているのは全否定をしないこと。
「相手にも言い分があるはずです。まずは話を聞いた上で、『ここが法律に抵触してしまう』と伝えると、理解してもらえることが多いです」
転職してから14年を迎える今、最も印象深い出来事は「昨年3月に起きた紅麹事件」と話す。該当する原料は使用していなかったが、心配した消費者からの問い合わせ件数は、通常の数十倍に及んだ。
その時に取り組んだのが、コールセンターの担当者用のQ&A集を作成すること。
「不安なお客様に対してどう伝えたら安心していただけるか。日々の最新情報を加味して受け答えのマニュアルを更新していきました」
同社は「サプリメント」という呼称を日本で先駆けて使用した企業だ。その後、機能性表示食品の規制にまで話が発展した際、業界と連携して安全性の取り組みを説明した。
私生活では、10代の3人の子どもを育て、毎朝ピアノを練習してから出勤する。無心で弾きながら、「今日はあの人にこういう話をしよう」と仕事の段取りを考える。
コンクールの出場を通し、人前で緊張しない度胸がついた。良い結果を残せなかった時は、「何が悪かったか」を多角的に考える。それを「仕事とプライベートとの相互進化」と表現する。
「部署のメンバーには、仕事の他に自身の軸になるものを持つのも良いと思う、と伝えることもあります。全く強制ではないんですけどね」と柔らかく笑う。(フリーランス記者・小野ヒデコ)
※AERA 2025年4月28日号