フジテレビの一連の問題は、職場における性被害の典型と指摘される。東京都港区のフジテレビ本社ビル
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 職場でのセクハラや性被害が報道されると、企業の組織風土やガバナンスの問題が指摘される。しかし日本には法的な取り締まりやセクハラ行為を禁止する法律がなく、適切な対応を取る法整備不足との見方も。AERA 2025年4月21日号より。

【図表を見る】過去3年間に職場でセクハラを受けたと回答した割合

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 男女雇用機会均等法は、企業にセクハラの防止や対応の措置義務を設け、「相談窓口の設置」や「相談に対する適切な対応」など10項目を求めている。

 だが、企業でのハラスメント問題に詳しい「独立行政法人労働政策研究・研修機構」副主任研究員の内藤忍(しの)さんは、「取り締まる仕組みに欠けている」と強調する。厚労省の調査では、10項目全てに取り組んでいる企業は19.4%。相談窓口担当者の研修等を実施している企業は24.6%に過ぎない。

「企業が措置義務を果たさない場合、労働局が行政指導に入れます。23年度は1575件の企業にセクハラ措置義務違反の行政指導に入り、一定の効果は上げています。しかし、行政指導は被害者から相談があった場合に限られ、行政が全ての企業に目を光らせることは現実的に難しいのが現状です」(内藤さん)

 しかも、日本には肝心のセクハラ行為自体を禁止する法律がない。内藤さんによれば、被害者が求めているのは・セクハラがあったとの認定、・行為者や会社からの謝罪(賠償)、・再発防止──の3点。しかし、セクハラが法律で禁止されていないため、労働局はセクハラがあったと認めることが難しく、被害者が求める適切な対処が得られないことが多いと言う。

「そのため、多くの被害者が声を上げられず泣き寝入りすることになっています。こうした現状は、セクハラに関する法整備が遅れていることに大きな原因があると考えられます」

 性被害の後、さらに傷つけられる「二次被害」も後を絶たない。フジテレビの問題では、中居氏を番組に起用し続けたことで女性は二次被害に遭い苦しめられた。冒頭の女性も、意に反し加害者である社長に事実関係を確認された。

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