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 死亡年齢の高齢化、葬式・墓の簡素化、家族関係の希薄化……、社会の変化とともに、死を取り巻く環境も大きく変化してきました。三世代同居が当たり前だった時代には、高齢者介護は家族の役割だと多くの人が考えていました。
 この30年間、死生学の研究をしてきたシニア生活文化研究所代表理事の小谷みどりさんが、現代社会の「死」の捉え方を浮き彫りにする新刊、朝日選書『〈ひとり死〉時代の死生観』(朝日新聞出版)を発刊しました。同書から「高齢化と家族の変化」を抜粋してお届けします。

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高齢者介護は家族の役割だと多くの人が考えていた

 私が死生学を研究しはじめた30年前と今とでは、死を取り巻く社会の環境が大きく変化した。例えば、厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、1975年には三世代同居は65歳以上の人がいる世帯の54・4%だったが、1980年には50・1%と半数になり、1990年には39・5%、2019年には1割を下回り、2023年には7・0%にまで減少している。

 1979年に当時の大平正芳首相が、日本型福祉社会と家庭の関係について「家庭は、社会の最も大切な中核であり、充実した家庭は日本型福祉社会の基礎であります」(1979年1月の第87 回国会の施政方針演説)と発言している。

 この頃は、高齢者の半数以上は子や孫に囲まれて生活していたのだから、「育児や看護、介護は、三世代の家族で担うのが基本」という考え方に疑問を呈する国民は少なかったのだろう。65歳以上の人がいる世帯のうち、ひとり暮らしの高齢者は1975年には8・6%にすぎなかった。そんな社会では、「ひとり暮らしをしている高齢者はかわいそうな存在」だったのだ。

朝日選書『〈ひとり死〉時代の死生観』(朝日新聞出版)より

 1986年調査の内閣総理大臣官房広報室「老人福祉サービスに関する世論調査」では、年をとって寝たきりの病気になった場合、実際の身の回りの世話をしてもらいたい人として、「配偶者」を挙げた人が35・4%で、次いで「娘」(16・7%)、「息子」(12・1%)、「嫁」(11・6%)となり、「病院、特別養護老人ホーム等の施設」を挙げた人は11・0%にとどまった。しかも「家族だけで身の回りの世話をできると思いますか」という質問に対しては、「十分できると思う」(13・4%)、「なんとかできると思う」(49・2%)と合わせて6割以上が可能だと回答した。

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