中国の生成AIの発展を抑えたい

 さらにTSMCに対しては、同社製の半導体が、米国の規制対象である中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の人工知能(AI)プロセッサーに搭載されている疑いで米当局が調査しており、10億ドル以上の罰金がかかる可能性がある。米側から見れば、だからこそ、台湾に最先端工場があるのは危険で、生成AI用半導体は全て米国製にしなければならないという考えになるのだと思われる。

 これらをつなぎ合わせると、米国に最先端工場をつくるだけでは不十分で、中国に近い台湾の工場をなくす必要があるということだ。

 そして、最近、中国が台湾周辺で、あたかも台湾の海上封鎖や台湾への上陸作戦を想定しているかのような演習を繰り返しているが、実は、その原因を作っているのが、台湾独立運動の動きだ。その背景には米国がいると言われている。表に出ている話でも、例えば、2024年5月、元は台湾独立派だった頼清徳新総統就任直後に、超党派の米国議員団が台湾を訪問し、新政権への支持を表明したことが挙げられる。

 特筆すべきは、今年2月に、米国務省が台湾に関するファクトシートから、従来記載されていた「米国は台湾独立を支持しない」という文言を削除したことだ。​これは、議会ではなく、米政府が、事実上台湾独立支持へ路線変更する意思を表明したと受け取れるもので、従来とはレベルが異なる挑発行為だ。レッドラインを越えている。

 このような情勢を読み解く上で欠かせないのが、生成AIの重要性の理解である。米国が最も恐れるのは、中国が生成AIで米国を凌駕し、シンギュラリティ(AIが人類の知能と並び、さらに超えるレベルに達すること。人工超知能<ASI>が完成すること)を先に達成してしまうことである。詳しい話は、別の機会に譲るが、AIで中国が世界の覇権を取れば、それは、経済・科学技術だけでなく軍事でも覇権を取られることを意味し、世界が中国にひれ伏すということが起きる。それを避けるには、中国の生成AIの発展を抑える必要がある。そのために、米国はさまざまな先端半導体関連の規制を行ってきたが、抜け穴があって、達成できない。そこで、中国のアキレス腱である最先端生成AI向け半導体の製造を全て米国に集中して、世界への供給をコントロールしようと考えているのではないか。

 そう考えると、中国を経済的に徹底的に追い込み、さらに台湾でも極限まで挑発を行うことで、中国が国内の不満を外に向けるためにも、台湾を攻撃するように仕向けるということは合理的だ。

 ロシアを特別扱いして相互関税の対象外とし、ウクライナとの停戦交渉でロシア有利の結論に導くことを条件に、ロシアに中国との同盟関係を断てと要求しているかもしれない。中国を孤立させる狙いだ。

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