古賀茂明氏
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 世界のマーケットはトランプ関税で大混乱に陥った。関税をかけられる相手国だけでなく、米国の株価も大暴落となった。トランプ米大統領もある程度は予想していたが、少し下落幅が大き過ぎた。さらに、4月9日には、米国債価格が大幅に下落。米10年債利回りが一時4.5%を超え前週末比+0.6%の急騰となった。放置すれば金融危機だという懸念が広がり、トランプ大統領も観念した。鳴り物入りで導入した相互関税の上乗せ部分を発動からわずか13時間余りで90日間一時停止すると表明した。屈辱の決定だ。ただし一律10%の相互関税は残る。

【写真】2016年、仲睦まじかったトランプ氏と習近平氏

 一方、中国だけは例外として、対中関税を145%に引き上げた。

 中国も米国への追加関税を125%に上げると発表。徹底抗戦の構えだ。

 相互関税一時停止を受けて、米国の株価は市場最高の上昇幅となり、国債市場も落ち着きを取り戻したかに見えたが、その翌日にはまた株が大幅下落。その後も不透明感が払拭されないことから神経質な動きとなっている。

 日本にとっては、今後の米国との交渉が最大の課題だが、それとともに、何よりも米中関税戦争がどうなるかが重大関心事となる。今回は、ここまでのトランプ政権の動きの中に見える「あり得ないと思えるが、あるかもしれない非常に大きなリスク」について考えてみたい。

 まず、中国だけに対して145%という異常な高関税を課すことの意味だ。中国経済に与える影響は計り知れない。だが、これで中国が折れることはない。

 中国はメンツを重んじる国だ。先に殴りかかってきた米国に対して、おとなしく交渉を求めるなどということは、習近平国家主席のメンツという観点でも、国民世論との関係でもあり得ない。では、どちらが勝つのか。

 2024年の米国の中国からの輸入額は4389億ドル、中国の米国からの輸入額は1435億ドルだから、中国の方が立場は弱い。

 だが、米国は民主主義の国で、報復合戦をエスカレートさせれば、被害を受ける国民がトランプ大統領を批判し始める。来年の中間選挙のことを考えるとどこかで妥協せざるを得なくなるかもしれない。また、株価が暴落したり、中国が保有米国債を大量売却して米国の国債市場が混乱したりすれば、今回トランプ氏が追い込まれたような事態が起きる可能性もある。

 一方、中国では、情報統制により経済の混乱に対する不満をぶつける対象を習主席から米国へと振り向けることが可能だ。最近まで不景気や物価高について、中国政府さらには習主席を批判するコメントがSNSに散見されたのに、現在は、これらの捌け口が米国、トランプ大統領に集中し、中国政府には、「頑張れ」とか「信頼している」という書き込みが増えているそうだ。

 また、米国では基本的に政府が株価を操作することはできないのに対して、中国はさまざまな介入でその混乱を緩和することができる。現に、中国政府系のファンドなどが大量のETF買いを実施して株価を買い支えたことが報じられている。

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