
「10分超の利用はどこも目に見えて減っています。ユーザーへの調査でもポジティブな意見が9割以上。多くの人がトイレに入れず困った経験を持っているからだと思う。『トイレを使いたい人が使えない』ことがない社会を目指していきたいです」
長時間座れない便座
長時間滞在はトイレ空間が快適だからこそ起こる。日本で特徴的な話かと思ったが、海外でも近い事例があるという。19年には、イギリスで一風変わったトイレが発表された。「SLANTY」と名付けられたそれは「傾斜」を意味するブランド名の通り、便座が前方へ約13度傾いている。足で踏ん張ることになり、長時間座っていられないという。輸出担当者が言う。
「きっかけは私たちのCEOが高速道路でトイレに立ち寄ったとき、大行列に並ばされたことでした。痔の主な原因はトイレに座っている時間が長すぎることだとの研究結果が出たことも後押しになりました。研究によると、トイレの1回の時間は2分以内が望ましい。それに、トイレの中で携帯電話を使用するのも衛生的ではありません」
発表時はSNSで激しい議論があったが売り上げは年々増加し、欧州各地はもちろん、世界中に輸出されている。導入先は確認できなかったものの、日本へも輸出実績があるという。
「イギリスではレストラン、高速道路のサービスエリア、パブ、ナイトクラブなどで使用されています。また、不動産開発業者への販売も始めました」
利用者目線ではもろ手を挙げて歓迎とは言えないが、混雑解消は不要な長時間利用を減らしてこそ。個別の事情でトイレに長く時間がかかる人がいるのは当然だ。そうした人が心置きなくゆっくりトイレを使うためにも、用が済んだらすぐに個室を出よう。改めてそう思った。(編集部・川口穣)
※AERA 2025年4月14日号より抜粋