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 西洋医学で病名がつかないようなこころの不調に対し、漢方では病名ではなく根本原因を探ることで治療していきます。しかし、西洋医学的アプローチと漢方的アプローチは二律背反ではなく、場合によっては併用する場合もあります。30年超にわたり漢方診療をおこなう元慶應義塾大学教授・修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治医師は、「時系列を遡りながら、何が根本原因なのかを探ることで、治療方針を決定します」と話します。

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 メンタル不調に対して漢方という選択肢もあるということを、より多くの人に知ってもらいたいと、渡辺医師は著書『メンタル漢方 体にやさしい心の治し方』(朝日新聞出版)を発刊しました。同書から抜粋してお届けします。

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漢方は不調の原因にアプローチする

 漢方の治療において最も大事なことは、不調の原因を探るということです。不調の原因を漢方では「内因」「外因」「不内外因」という3つの病因に分けて考えます。

 内因はからだの内からの原因ということです。「七情(しちじょう)」と呼ばれる「怒」「喜」「思」「憂」「驚」「悲」「恐」の7つの感情を指します。

 外因は外からの要因ということです。「風」「寒」「暑」「湿」「乾」「熱」の6つの環境変化を指します。

 不内外因は、食べすぎや運動不足といった生活習慣などを指します。どういうことかというと、食べたいという欲望は内から出る原因ですが、食べるという行為は外から物を取り込む行為なので、この両者に起因するもののため不内外因となるのです。

 漢方の治療では、患者さんの話を聞いて不調の源流である病因にたどりつき、そこにアプローチすることで根本的に治すことを目指します。

 源流まで遡るのは、簡単なことではありません。初診は30 分~1時間程度かけてじっくりと患者さんの話を聞きます。家庭の問題など、抱えている悩みを最初から話さない患者さんも多いですし、本人が自覚していないこともあります。とにかくしつこく聞いて、何回か診察しているうちに「実は」と話してくれるようになることもあります。じっくり話をしているうちに信頼関係ができて、治療もいい方向に向かうことがあります。

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