
外資系のガバナンスの常識は「性悪説」
フジは今回の問題を機に組合員数が急増したようです。経営陣は組合を巻き込み、「タブーなしで知っていることをすべて教えてください」とつぶさにヒアリングするのがよいと思います。問題社員を辞めさせるのはそれからです。
「ハラスメントに寛容な企業体質」については正直、ここまでの大企業のカルチャーを急に変えるなんて無理な話。3月31日の記者会見で、フジの清水賢治社長は今後について「コンプライアンス研修の義務化」といった対策を上げていました。このようなことだけで、社員全員の意識が変わるはずがない。
私が身を置いていた外資系企業のガバナンスの常識は、性善説ではなく性悪説に立つことです。研修に割く時間とお金があるなら、社内に“外からの目”を入れて監視させる仕組みづくりに本腰を入れたほうがいい。
フジの常勤取締役は刷新されたとはいえ、清水社長をはじめとした“身内”が名を連ねています。なぜ内部昇格者ばかりそろえて、社外から招聘(しょうへい)しなかったのか。グローバル企業で不祥事が発覚すると、社外取締役をふくめた取締役たちが血眼(ちまなこ)になって実態を暴こうとします。第三者委員会を立ち上げるのは日本企業に特有の現象で、自浄作用が働かないことを世間に提示しているようなものです。
ここまで問題が拡大した背景には、フジの監査役が機能していなかったことも大きいでしょう。日本では監査というと会計監査の印象が強いですが、本来はコンプライアンスをふくめ、社内のあらゆる問題に目を配る絶大な力を持つ部門です。ネスレ日本の監査部は独立性を保つために、調査結果のレポートをアジア地域の統括本部に提出していました。それに加えて、スイス本社からも年に一度監査部隊がやってきて、2~3カ月かけて徹底的に調べられました。