AERA 2025年4月7日号より

「もともと部門内のコミュニケーションや情報伝達が活発な社風なので、ふらっと通りかかった人が話しかけやすい設計を目指しました。執務スペースは各フロアの南北にそれぞれ設置しています」

フロアごとに違う豆を

 16階から28階まである業務フロアには、三つのコンセプトがある。特定のプロジェクトについて議論するなら「CO-WORK」、カジュアルな情報共有がしたいときは「SOCIAL」、緊急性の高いタスクフォース型のコミュニケーションが必要になれば「CROSS」。そんなふうに名付けたフロアをパソコンを持った社員が行き来する。

「交互に位置しているので、上下に動けばすべてのフロアを活用できます。目的やアクティビティーに合わせて使い分けるので、人の往来が生まれます」

 13のフロアの中心を内階段が貫き、常に誰かが上ったり下りたりしている。各フロアに設けられたカフェカウンターには人が集い、会話をするマグネットスペースとしても機能している。

「コーヒーマシンはあえて抽出に時間がかかるものを選び、豆の種類もクロスとソーシャルでは違うものを使っています。待つ時間が会話を生んだり、飲み物が縦の往来を促したりするからです。食べ物や飲み物の持つ力はやっぱり強いです」

 そう宮路さんが話すように、新オフィスにはコミュニケーション活性化の仕掛けがいたるところにちりばめられている。その効果は見た目にも表れるようで、建て替え後、社員の服装がカジュアルになった。

「それ以前から服装についてのルールはもっと柔軟になっていましたが、なかなか変わっていなかった。それがネクタイがなくなり、革靴からスニーカーになりというふうに変化していきました」

 会話が増え、部門ごとの垣根も低くなった。かつては他部門のフロアに出向いた際に「違う会社」のような感覚に襲われたという。だが、今はどの部門に誰がいたとしても、その違和感はなくなった。10年越しのプロジェクトの成果が、芽吹き始めている。

(編集部・福井しほ)

AERA 2025年4月7日号

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